個別指導関連情報

全国初「個別指導は行政手続法の適用」等の書面回答の獲得と
「面接懇談方式」実践で終了した個別指導の事例について
「個別指導」と「監査」の峻別に向けた大きな一例 (談話)

2017年7月18日
審査指導対策部長  小橋 一成
 個別指導が4年もの長期間にわたり終了しなかった異例の事態について、協会では会員から相談を受け、共に対応をしてきた。今年3月、この個別指導が無事に終了したので、この4年間の取り組みと併せて獲得できた価値高い事柄について紹介、報告をしたい。
 会員は、4年間の個別指導の渦中で、徹底して厚生局に対して法律に則った運営を求めた。その結果、厚生局から「個別指導は行政手続法が適用される」「個別指導には質問検査権は有していない」などの回答を書面で得たうえ、実際の個別指導でも書面回答を実践し、指導大綱が定める「面接懇談方式」を貫徹し無事に終了するという事例となった。
 厚生局が書面で示した回答内容は、協会ではこれまでも要求をしてきた内容に沿ったものであるが、書面で示したのは全国的に初めてのことであろう。本来、個別指導は法律に則って懇切丁寧に行わなければならないはずであるが、実際には法律に則って行われているとは言いがたいのが現状である。今回の書面回答や「面接懇談方式」の実践のように法令に則った運営を厚生局が徹底したならば、人権を侵害するような個別指導は一掃されていくであろう。
 4年という長期間に及ぶ個別指導に応じ続けた会員の労力は計り知れないが、この事例は、私たちの個別指導改善運動を大きく進める画期的な事例である。
 詳細については別に譲るが、以下4点、獲得内容や課題について触れたい。
(1)「個別指導」と「監査」を峻別する2つの書面回答
  -「行政手続法が適用される」「質問検査権は有さない」について
 会員は4年の間に多数の質問書を提出したが、厚生局からは不十分ながらも不定期に回答がされてきていた。「個別指導は行政手続法が適用される」「個別指導は健保法73条に基づいて行い、質問検査権は有していない」との回答が書面にて寄せられたことは、個別指導の改善運動に取り組んできた埼玉協会にとって画期的なことであるとともに、全国的にも今後の改善運動に大きく寄与していくものといえる。
 行政手続法には「一般原則」として「相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」「行政指導に携わる者(注:厚生局のこと)は、その相手方(注:個別指導を受ける者)が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならない」などが規定されるなど、行政指導のルールが定められている。これまでも協会は行政手続法に則って個別指導を運営するよう厚生局に強く要望してきていた。
 個別指導の枷となる行政手続法が、個別指導の適用になることを厚労省は執拗に避け続けてきていた。かつては行政手続法の適用との口頭回答を示したこともあったが、現在は、厚労省、多くの地方厚生局等が、個別指導の運営にあたって「行政手続法は一般法」であり、「特別法である健康保険法」の方が優先する、という解釈を強弁してきた。行政手続法の一般原則である「任意の協力」などの規定を無力化させていたのである。
 私たちは、4年の間に厚労省と直接面談の機会を得て、これらの解釈の誤りを指摘もしてきた。今回得た書面回答は、厚労省の自身の従前解釈が修正されて出されていることを、まずは指摘したい。ただ、厚労省は自ら、解釈変更や修正した旨の意向を示していない。私たちは今後の運動の中で、法律の解釈周知と合わせて、行政手続法の一般原則が個別指導の現場で徹底されることを求めていくものである。
 次に、「質問検査権」についてである。個別指導が歴史的な経過も経て現在のスタイルで運営される現状では、カルテなど保険医の持参資料を丹念に調査のうえ、指導官が次々と質問を浴びせかけてくる方法(「質問検査」)が当たり前になっている。時には取り調べのような状態にもなり、私たち保険医が精神的にも追い込まれることは良く知られている。
 こうした個別指導の方法は健康保険法はおろか、実は指導大綱にも認められていない。「質問検査」は監査でしか認められていないのである。現在の指導大綱では「面接懇談方式」によって個別指導を行うこととされており、指導官が、持参資料を隈無くチェックのうえ、矢継ぎ早に質問をすることなどは認めていない。長年の慣例、厚労省の指導官教育が法令に則って行われていないことなど理由はあろうが、個別指導が法令に背いて「監査的指導」として実施されているのが現状である。
 「個別指導には質問検査権は有さない」とする回答は、現状はともかくも法令に照らせば「個別指導」と「監査」は峻別されることを厚労省、厚生局が認めたことに他ならない。厚労省側が個別指導の実態との乖離を改めて認識したうえで、回答したことは大きな意義があろう。現状が法令に則らずに実施されていることは非常に問題が大きいといえる。
(2)面接懇談方式の実践
 会員はこれらの回答を得たことも前提とし、自身の個別指導において「面接懇談方式」を貫徹した。指導医療官から、患者個々のカルテ等内容について質問を受けることなく、点数表の解釈や検査方法、カルテの記載方法などのことについて一般的な懇談を行い、指導は終了したのである。約1カ月後には「概ね妥当」とする結果通知も到着し、この個別指導は4年間を要したが本当に終了となった。
 4年間の経過もあり、厚労省側も「面接懇談方式」とせざるを得なかったのかもしれないが、個々の患者事例に関する質問を行わずに個別指導が終了したことは、画期的といえよう。複雑な保険診療のルールを学習する機会は貴重であるし、個別指導は本来そういう機会とするべきである。「面接懇談方式」の実践は、本来のあるべき個別指導を厚生局が実践できることを示したものといえよう。
(3)法令に根拠をもたない「中断」と厚労大臣の裁量
 終了までに4年にも及ぶ長期間を擁することになったことについて、2点の問題に触れたい。
 1点は厚生局側による一方的な指導の「中断」についてである。今回の指導においても一方的な「中断」とする扱いが繰り返された。個別指導の「中断」は、保険医側に何の納得も理解もさせず、一方的に厚生局の判断で行われている現実がある。行政手続法に鑑みれば、相手方の協力によって実現するのが個別指導であるのだから、少なくとも、保険医側が納得する理由や概ねの次回期日を示すなど、しっかりと合意手続を保障するようなルールづくりを急ぐべきであろう。
 もう1点は、長期に及んだ要因として厚労省側が「カルテの閲覧」に拘泥した点である。一旦終了となったはずの個別指導は「カルテの提示」をすることなく事務官の終了宣言がされたが、その後「カルテの閲覧」なしに個別指導は終了しないとの解釈により個別指導が長期間を要することになった。カルテの閲覧も、個別指導の方途として明示されているものではない。質問検査の問題と同様に、法令と現行運営とに矛盾があることを指摘せざるをえない。
 2点に代表する問題について、厚生局は「厚労大臣の裁量」で行っているとの説明を続けているが、規制のない裁量行政は行政手続法の趣旨に背いており容認はできない。
(4)最後に
 現状の個別指導と法律で定められている内容に大きな乖離があることを改めて認識するが、私たち保険医が、診療の現状を踏まえつつ、法令の整合性を検証する時期にきているといえる。
 また、今回の事例は特殊な事例であるので、現時点で「面接懇談方式」を主張しカルテの閲覧を拒否すると、個別指導を拒否したと認定される危険がある。強い意志をもって実践を希望する場合には弁護士帯同のうえで、行政と懇談することが望ましい。それ以外は、あくまで「必要に応じて協力する」ということを認識したうえで対応することが必要である。
 大変特殊な個別案件であったため相談内容や経過について公表できずにきたことについては、様々なご意見もあろうかと思うが、今回の事例で得られたものを糧にして、協会では、行政手続法に則った個別指導の実践や面接懇談方式の定着を目指すとともに、全国の協会、保団連にも「中断」のルール化を求めていく所存である。会員の皆さまに個別指導の改善運動への協力、ご支援をお願いしたい。
以上

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