論壇

STOP! 医療崩壊 すみやかな公約の具体化を

さいたま市 松本 光正

 地域医療は崩壊状態にある。一部では過酷な勤務現場を逃れ、開業が増えたとする見方もあったが、全国の診療所数は、〇八年の一年間で、わずか四件しか増加していない状況である(過去一〇年間の年平均は八六七増、全国保険医新聞六月十五日号掲載)。一〇万人あたり医師数の全国平均は二一七・五人である。減少にこそ転じていないが埼玉は一四一・六人であり、そもそも全国最下位である。

オンライン「義務化」省令の撤回

 六月の第三五回定期総会で青山理事長はレセプトオンライン「義務化」撤回の重要性を第一に挙げた。第一に挙げるには第一に挙げるだけの大きな理由があるからである。その理由はレセプトオンライン「義務化」が、地域医療の崩壊にさらに拍車をかけることになるからである。「義務化」をなんとしても阻止し、厚労省の通知行政に風穴をあけなければならない。

 埼玉協会は全国の協会の先陣を切って「義務化」撤回訴訟に取り組み、一〇二人が原告団に参加した。

 民主党は総選挙にあたりレセプトオンライン請求の「原則化」を主張した。「原則化」とは「義務化」を規定した厚労省令一一一号を撤回することであるとも言われている。

 しかし、省令の撤回が二〇一〇年四月では、医科診療所にとって実質的に義務化と同じである。「義務化」を政府自らがすみやかに取り止めるべきである。

後期高齢者制度の廃止

 また、このレセプトオンライン「義務化」撤回の運動と共にもう一つ大きな運動に取り組んでいる。「後期高齢者医療制度の速やかな廃止」である。人間を七五歳で区別し、保険料を別に徴収し、老人を更なる低医療に導こうというのだから国民の大半が怒るのは無理のないことである。この怒りが尋常ではないことは制度発足後すぐに政府自らが「後期高齢者医療」を「長寿者医療」と言い換えざるを得ないことでも明瞭である。すでに参議院で廃止法案が可決されたが、衆議院の解散にともない審議未了廃案となった。この制度を飽くまでも押し進めようという勢力と、速やかな廃止を要求する勢力の戦いである。そして努力次第では政治的に速やかな廃止が実現できる力関係にある。愚かな医療政策を廃止させるためにすみやかに制度廃止の具体化が望まれる。

時間要件の撤廃

 医科再診料の外来管理加算に導入された時間要件について民主党は撤廃を主張した。

 導入にあたり厚労省が中医協に示した調査データが不正流用であったことが明らかになっている。また、厚労省は要件変更の影響額を一〇%の算定減で二〇〇億円と試算していた。

 しかし、〇八年度社会保険診療行為別調査では診療所算定回数が三九・八%減少し、実際の影響額は当初の試算を大幅に上回っていることは明白である。二〇一〇年改定を待つことなく、すみやかに撤廃することが期待される。

 厚労省による様々な医療費抑制の政策が、手を替え、品を替えて巧妙に勧められているのが現状である。そして更に次々に打ち出されてくる医療構造改革は医療の崩壊を一層深刻にしている。四回連続のマイナス改定の影響は経営の悪化を招き、それにとどまらず開業医の健康にも重大な影響を及ぼしている。さらに産婦人科、小児科だけでなく全科的な医師不足が国民の命に大きな影を及ぼし始めている。その医師不足を招く政策をとり続けた勢力はその責任をとらずに、いまだに医師の偏在と言ってはばからないのであるから、このような勢力が医療政策を続けていけば日本の医療はますます崩壊に向かってゆくのは必至である。

情勢に希望の光 今までにない期待

 今までの国民に犠牲を強いる低医療費政策ではなく、国民に安心な医療を提供する医療政策に転換するのか、大きな岐路に立っている。やられているばかりではない、反撃が大きなうねりを作りながら政府を追い込んでいることも事実である。もちろん過大な期待は禁物であることは十分認識しておかなくてはならない。しかし過大ではないが今までにない期待が、わずかではあるが、少しは持てる状況にあることも事実であろう。そしてこのわずかな期待が現実化されれば我々医科歯科開業医だけではなく国民を取り巻く医療情勢にも希望の光が射し込むことも事実であろう。希望の光が少し射し込んできていることに自信をもちつつ運動を進めてゆきたい。

2009年9月5日埼玉保険医新聞掲載


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