論壇

国の新型インフルエンザ(S-Flu)対策
特にワクチン(Va)接種対策の混迷

戸田市 福田 純

 今秋、埼玉県南部のS-Flu流行は一定点医療機関当たり三〇を超えた。冬になる前に既に警戒レベルに達し、今だに感染者数は増加の一途である。これに伴い重症者や死者の増加が報道され、一般人のS-Fluへの恐怖感は日に日に増している。

 そんな折、S-FluVa接種が十月十九日、最優先の「医療従事者たちから開始」と報道された。地域住民から医療機関に連日、「何時からVaは注射してくれるの?」やら「オタクでS-FluVaの注射は出来るの?」等など、問い合わせで通常業務を圧迫。折から「メタボ健診」の時期とも重なり、また流行真っ只中のS-Flu患者とそれへの心配受診や否定証明受診も多く、忙しさに追い討ちを掛けている。加えてVa接種要綱の稚拙・迷走ぶりで、医療現場はてんてこ舞いである。何故このような事態になったのだろう? 問題の本質はS-FluVaを希望する全国民に接種できれば「優先接種」トリアージなどの議論は不毛であった。全国民分を無料で接種する先進国も多い中、なぜ日本ではそれが出来ないのか?

 それは厚労省の永年の不作為により、Vaが抱える諸問題を解決して来なかった為である。まず、国が「Vaには必ずリスクがあるが、それを上回る利益がある場合に接種する」という、国民への啓蒙、民意の醸成を怠ってきた。“国民の命を守る”という国の基本的責務を放棄してきた。その気概が乏しかった為、Vaを希望する全国民に接種する供給体制が構築できなかった。日本は世界でVa製造可能な一〇数カ国の一つであり、世界二〇数社のVaの四社を有する国である。Va製造できない途上国の分を金の力で分捕る(輸入)なんぞ論外である。むしろ、Vaを用意できない途上国などに輸出するなり、人道支援としてVaをODAなどとして供給する方法もあったのでは? と私は考える。

 国のVa行政が軟弱なため副反応者の被害救済策が不充分となった。結果、被害者は国、製造業者や医療者等を訴えるしか方法が無かった。この構図は双方の不幸しか生まない。同時に加害者とされる者達に対する無過失・免責対策が構築されていない。Va製造を国家の安全保障とする発想がないため、国はVa製造産業の育成を怠り、今その付け回しが噴出しているに過ぎない。

 以上はさておき、今回のS-FluVaはそもそも安全なの? との疑問が解かれていない。国産Vaは従来の製造方法なので問題はないと厚労省。外国産は製造法が異なり、増強剤(アジュバント)が入っている。これらについて日本人への使用経験はなく、きちんとした臨床試験(治検)を行なうべきだが時間の猶予がない。そのため安全性や有効性に少なからず疑問のある見切り発車的Vaで、我先にと群がって良いものか? 疑問の余地はおおいに残る。案の定、国は「最優先接種の医療者二万人から副作用報告を採取」と。我々医療者は治験最優先グループでもある。

 S-FluVa接種回数も紆余曲折の末、医療者を除き二回接種となっている。一回接種で免疫がつきやすい人達が医療職に就いているとでも言うのだろうか? いずれ小児を除いて一回接種に落ち着きそうである。なぜなら一回接種にすれば全国民に行き渡る。それと今、民主党が必死になって予算編成の削減に挑んでいる。接種回数を減らすことで、千数百億円が浮く勘定に成る。医学的根拠EBMよりも政治的優先接種が見え隠れしている。

 最後に、死亡率が世界の〇・五%前後に比べ、日本の死亡率は推定〇・〇〇一%(一〇万人に一人)と桁外れに低い。この理由としてFluかな? と思った段階ですぐに医療機関を受診。迅速診断でA型陽性後直ちに抗ウィルス薬が投与されるという世界的にアブノーマルな日本の優れた初期治療形態の賜物によると考えられる。もしかすると、この事は少なからず安全に不安を残す現況のVaを無理して接種しなくても? との選択肢も出てくる。そして今、性急にS-FluVaを接種しなくとも、年が明ければ諸事情によりVaは余ってくると予測する。

2009年11月5日埼玉保険医新聞掲載


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