論壇

女性医師が活躍できるシステム作りは医療再生の一つの糸口になる

秩父市 新井 恵子

 今までの少子化対策は効果なく、高齢化社会へ確実に突入しています。将来の労働人口の減少、購買力の低下は、国の経済問題にまでなりました。ここに至るまでも、様々な問題があったはずですが、当該する女性や家族が一人で問題を引き受けるという形で解決されており、論議されることはありませんでした。ここまで事態が逼迫すると、経済評論家によって、子供を育てられる社会へ転換すべきであると説かれるようになりました。民主党は、「社会で子供を育てる」という公約を実現するために、「子ども手当」という現金給付を施行する予定です。多くの人が求めているのは、現金給付ではなく、保育設備の充実や短時間勤務を初めとするワークライフバランスをとることのできるインフラの構築です。民主党の政策に対して、「現金給付より、保育園の増設を」という批判が多く聞こえます。でも「社会で子供を育てる」というスローガンに向かって一歩前進したことは評価されるべきだと思います。

 家庭で育児も介護もという安上がりの政策は、色々な問題を引き起こしていました。家族そろって健康な家庭では、このシステムの上に乗ることができました。一方、このシステムの矛盾を一家庭で引き受けなければならなかったのが、片親の家族や重度の障害者を抱えた家族でしょう。これらの家庭では、国単位で解決すべき問題を、今でも一家族で負担して生活しています。高度福祉国家への転換が要求されるところです。

 また、女性がキャリアを積む際にもこの性別役割分業は障害となっていました。多くの人は能力を発揮できずに仕事をやめていった女性を思い浮かべることができるでしょう。女性社員が能力を発揮できないという損失に、いち早く気づいた企業は、企業内保育所、短時間勤務などに取り組み効果を挙げています。一方、免許一つあれば、結婚して子供を育てた後も食いっぱぐれはないと思われているためか、医療界では女性医師が働き続けるシステムは作られてきませんでした。女性職員の多い職場、24時間体制の特殊性を考慮した医療界独特の健康的な働き方が作られてしかるべきだったはずです。夜勤明けの勤務、手当のない時間外労働、意味のない三六協定などが、やっと最近になって問題になってきました。医療崩壊の一つの原因に、この過剰労働があったことは否めないでしょう。また、看護師不足の一つの原因に、看護師の労働環境が魅力的でないという点もあると思われます。過剰労働による鬱病の診察をし、健康な働き方を患者さんに説いている医療界で、自らの健康問題がなおざりにされていたことは、不思議な現象です。医療費抑制策だけが招いた現象とは思われません。

 地域医療が崩れ始めたころから、女性の国家試験合格者が3割を越え始めました。厚生労働省も女性医師が働き続けられるシステムの助成を始めるようになりましたが、助成金も少なく、まだまだ利用されていないのが現状です。先進的な病院では、短時間正職員制度、夜間保育などが導入され、効果を挙げています。多くの病院でも少しづつ変わり始めていますが、不慣れなためか、逆差別(子育て中の女性医師が優遇されすぎる)という事態も生じています。それぞれの職場で、公平感のある待遇に改善し続ける努力が必要と思われます。

 制度の変革や助成金が必要なことは言うまでもありませんが、各々の職場で、共に働く人が、能力を発揮し、ワークライフバランスのとれるシステムを作り続けることが、そして女性医師は研鑽を惜しまず、良好な人間関係を作り続けることが、医療再生への一つの糸口になると考えます。

2010年2月5日埼玉保険医新聞掲載


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