論壇

歯科訪問診療の勧め

さいたま市 金子 久章
 
 今次診療報酬改定の通知や疑義解釈が漸く出揃ってきた。歯科に関して言えば、やっと社会保障審議会と中医協の答申に整合性がとれ、厚労大臣告示や通知にも整合性が生じ、これまで十数年に渡るマイナス改定分を取り戻すまでには全く至っていないものの、広く薄く点数の貼り付けが行われた。また理不尽な通知も多少改善されてきている。
 社会保障審議会では二〇〇八年の「安心と希望の医療確保ビジョン」をもとに、医科歯科を問わず高齢化社会に於ける「治す医療から治し支える医療へ」という大きな柱が提示されており、歯科もいよいよプライマリーケアを中心として訪問診療や継続療養、口腔ケアといった慢性疾患向けの報酬増になるのかと思っていた。しかし、実際の改定では在宅医療の点数は下がり続け、継続療養、口腔ケアは否定され、治らない患者は診るなとでも言われているかのような診療現場でのアを中心として訪問診療や継続療養、口腔ケアといった慢性疾患向けの報酬増になるのかと思っていた。しかし、実際の改定では在宅医療の点数は下がり続け、継続療養、口腔ケアは否定され、治らない患者は診るなとでも言われているかのような診療現場での違和感が常にあった。歯科医師会でもこれまで社会保障審議会担当部署と中医協担当部署との間に齟齬があったと仄聞する。
 また、表向きはプライマリーケア、在宅歯科医療推進と謳いながら審査で縛り、やる気のある診療所を個別指導に選定するなどの政策との不一致があった。審査、指導については実際の診療現場や政策を必ずしも反映している訳ではなく、審査委員や指導医療官の個人的な裁量によるところが大きいのである。当診療所もかつて歯科訪問診療料の算定件数が多いという理由で、個別指導に選定された経緯がある。その当時は、「訪問診療そのものが良い治療ができないのだからやるべきではない。件数が多いということは、それだけいい加減な治療が多いからだ」といった本末転倒な理由で一定件数以上の歯科訪問診療料を算定している歯科医療機関が一律に個別指導に選定された。それを機に訪問診療そのものを止めた診療所が多くある。さらに、訪問診療を行うと個別指導に選定されるリスクが高いという印象を広く開業歯科医全体に与えてしまったこともまた事実である。そのため、埼玉県での歯科訪問診療の実施率は全国四七位で最低なのである。
 しかし現在は、審査委員も若干の世代交代が進み、訪問診療を行なったことのある審査委員が増えており、現場の実態に即した審査が行われはじめた。
 ここで趣旨である「歯科訪問診療の勧め」であるが、今回の新点数改定説明会では、介護保険と訪問診療の分野の解説がはじまると、わざわざ席を立ち退出する先生方がかなり散見された。訪問診療を否定的に捉える本県の傾向が見てとれる残念な光景であっここで趣旨である「歯科訪問診療の勧め」であるが、今回の新点数改定説明会では、介護保険と訪問診療の分野の解説がはじまると、わざわざ席を立ち退出する先生方がかなり散見された。訪問診療を否定的に捉える本県の傾向が見てとれる残念な光景であった。本県の人口動態と患者の年齢構成や疾病構造の変化、また入院から在宅へという国の政策を考慮すれば在宅医療の需用は増加するのであるから、これを機会に発想を転換して歯科訪問診療アレルギーを払拭していただきたいのである。
 二〇〇〇年に社会的入院の解消を目指して既存の医療、福祉の一部から財源を捻出して介護保険が創設された。当然医療の中には歯科も含まれており歯科医療費も財源の捻出元になっていることを今一度確認しておきたい。
 また歯科医師の中には「介護保険は歯科に馴染まない」とする見解や「介護は歯科とは関係ない」という主張も存在する。そのように言うのみで代案を示さず、訪問診療をやらずに介護保険を扱わないことは、社会資源を患者のために有効活用するというプライマリーケアの理念に反する。ましてや歯科医師の裁量で扱える財源を自ら放棄するのであるから、今後診療報酬の増額要求などは出せないことになる。
 歯科全体のためにも歯科訪問診療を行い、歯科医療の裾野を広げる日々の活動を行うことが重要である。

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