論壇

安倍政権で医療はどうなる TPP参加は皆保険を崩壊させる
川越市 時田 信博
 経済再生と金融緩和を謳い文句として政権を獲ってから三カ月足らずであるが、安倍内閣の提唱するデフレ脱却から行き過ぎた円高の是正などのいわゆるアベノミクスはすでに功を奏している。最近は円安傾向が急に進み、あっという間に円は米ドルに対し二〇%も下落し、それに伴って東証株式も大幅に株価を上げ経済界からは歓迎されている。国民の多くがこれを景気改善の象徴とみて内閣の支持率も上昇している。
昨年の総選挙前は、国民が最も優先する問題は我が国の落ち続ける経済の回復と雇用の改善であった。安倍首相は政権奪回後、この経済再生を最優先して早急に経済財政諮問会議を復活、産業競争力会議なるものを立ち上げた。
後者の会議の委員は小泉内閣で率先して構造改革を実行した竹中平蔵氏、経団連の副会長、大企業の社長、経営者などが名を連ね財界重視の傾向が顕著である。この会議の委員はその多くが安倍政権のポチ的人材が選ばれ、財界人からなる委員はすべて市場原理派である。これでは現内閣のTPP参加は免れない。最近の参議院予算委員会でも、野党議員からの質問で「国民皆保険制度をTPPに参加する際にまもってくれるのか」の質問に総理は「国民皆保険はよい制度であり、必ずまもる」と明言し、更に与党議員から「日本の農業はTPP参加で壊滅的になる」との意見には「それも必ずまもる」と答えている。
しかし、このような二つの最も利益となる重要な分野をTPPから例外として条約から除外すれば、相手国は後に残っているものだけでは交渉には乗ってこないのは明らかである。
さて、ここでは日本がTPPに参加するとどうなるか考えてみよう。TPPでは混合診療の導入が行われる。この混合診療と言えば小泉内閣の時に問題となったテーマでもある。
混合診療推進派は「未承認薬、未承認治療法を自由診療で受けることが可能になり、患者のためになる。またそのような治療を国内で受けることが可能となる」と言う。しかしそれは同時に医療に格差を持ち込むことであり、日本の医療制度の三つの原則(皆保険、フリーアクセス、現物給付)に反することにもなる。
我が国では保険診療と自由診療を併用する混合診療は禁じられている。アメリカでは日本のような皆保険制度はなく、医療は民間の保険会社が提供する。そのため医療も全くの市場原理の世界である。
保険会社は営業のため保険料を吊り上げ、医療費を抑えるためできるだけ払わない、高額診療を認めないなどの方針で経営し、利益を上げている。ハイリスクの者には膨大な保険料が課せられる。その結果払える者とそうでない者ができる。経済格差がはっきりと医療に現れる。その影で医療保険業界は莫大な利益を得ており、毎年のように急成長している。
このような会社が日本への上陸をめざしている。それをバックアップしているのが民間保険をもつ会社、医療に参入した会社、外資系の生保である。
しかしながら、日本では国民皆保険制度による混合診療が禁止されているため、これがネックとなってアメリカの会社が日本の医療に参入できない状況である。参入するには法律を改正しなければならず、TPP参加によってそれが実現してしまう可能性が大いにある。
最近の安倍政権の高い支持率に乗じて来たる参議院選挙にも大勝すれば、すべてが安倍内閣の望むように決定され、法律改正も十分可能となる。経済優先政策のなかでは世界に冠たる我が国の皆保険制度は崩れてしまうことは明らかである。
我々は反TPP運動を盛り上げて国民全体の問題であることの啓蒙と宣伝活動を広げ、国民皆保険の崩壊を絶対に許してはいけない。


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