論壇

ノバルティスファーマ社ディオバン(バルサルタン)の処方中止を
北本市 青山 邦夫
 〇七年、慈恵医大ハートスタディがランセットに発表された。バルサルタンが脳や心血管疾患の発症を抑制するという内容であった。当初よりこの論文には批判があり、先日、慈恵医大は調査の結果不正があったことを認めた。
 今回の事件の発端となった京都府立医科大のキョウトハートスタディは、〇九年八月に 欧州心臓病学会に発表され「バルサルタンは心脳血管のイベントでリスクが半減した」という内容であった。しかし、この論文は問題があるとして一三年二月に撤回され、この研究を主導した松原教授は辞職するに至った。
 その後、この論文が捏造との報道がなされる中、ノバルティスファーマ社(以下「ノバ社」)の社員が大阪市大の職員を名乗り(松原教授は身分を隠したことは承知とのこと)、この研究の統計分析を担っていたことも明らかになった。この社員が、名大のナゴヤハートスタディ、千葉大のVART、滋賀医大のVARTといったバルサルタンの研究に関与していたことや、ノバ社が京都府立医科大に一億円以上の寄付をしていたことも明らかになった。ノバ社の社員であることを隠していたことも含めて、利益相反の公表を定めている日本製薬工業協会の「透明性のガイドライン」にも反している。
 日本でのARB市場は五一一三億円(一一年)で、全降圧剤市場の半分を占めており販売競争は激烈である。
 バルサルタンは、〇四年には八〇〇億円の売り上げがあり、慈恵医大のハートスタディ発表の〇七年には、一一三〇億円、さらにキョウトスタディが発表された〇九年には一四〇〇億円と大きく売り上げを伸ばしている。これらの研究は他のARB薬に対し、臓器障害の予防に優れているとの内容であり、販売促進になったことはこの薬の年次別売り上げの金額をみると一目瞭然である。
 バルサルタン八〇㎎の薬価は一一四・八円で、トリクロメアジド(フルイトラン)二㎎の薬価九・六円と比較すると、一二倍と非常に高薬価である。ARBの降圧効果もフルイトランの一二倍ほどあるのだろうか。
 日本でのACEとARBの販売比率は二対八、欧米では七対三であり、欧米と比してARBが異常に使用されている現状に違和感を覚える。
 製薬企業が大学に多額の寄付をし、その企業の意向にそって研究者である医師が論文を捏造し、かつ不正な研究発表をし、製薬企業が販売促進に利用したという医療界の構造的問題であり、詐欺も甚だしい。これらのデータを信頼し現場で高血圧の治療をしている医師までもが、国民から製薬業界の手先でないかという不信の目でみられ、日常診療に多大な影響を及ぼしている。憤懣やるかたない。
 この不正論文は、〇九年の高血圧学会が作成した高血圧治療のガイドラインにも引用され、単なる降圧効果以上に、直接の臓器障害の予防、ひいては疾患の発症を抑制する可能性があると記載されている。このように、このバルサルタンの臨床研究を高らかに宣伝してきた高血圧学会はこのガイドラインそのものの信憑性が問われている現在、医師を始め国民に説明する義務があると思われる。
 厚労省は医師主導の臨床研究について、倫理指針で対応しようとしているが、今後は何らかの法的な拘束力もったシステム構築が日本の臨床研究の信頼を取り戻すために必要と考える。同時に、今後大学等の研究機関は高いモラルを持って臨床研究に当たってもらいたいものである。
 今回の事件について、日本医師会や全日本民医連は真相解明を求める声明を発表しているが、ノバ社は全容を解明する意思がないことを堂々と記者会見で述べている。まったく怒り心頭である。
 この事態において済生会中央病院は、ディオバンの使用を八月五日より中止すると発表、また、徳洲会グループも八月十日に使用中止を決定した。この事件の発覚以来、小生はディオバンの処方を変更、ないしは中止している。ノバ社に猛省を求めるため、会員諸氏にディオバンの処方中止を訴える次第である。

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