声明・談話

診療報酬改定に関する理事長談話

2014年3月  埼玉県保険医協会 理事長 大場 敏明
 14年改定は政府の狡猾さと手法の乱暴さが露わになった。消費税増税は、経済成長の担保が見通されて実施するはずであり、増税は社会保障の充実が目的であった。しかし、診療報酬の改定率は、診療報酬点数部分でプラス0.73%、薬価・材料価格がマイナス0.63%で診療報酬本体ではプラス0.1%となった。しかし、厚労省が設定した消費税増税に対する医療機関の損失補填分が1.36%含まれており、実質1.26%のマイナス改定となった。また従前から、薬価引き下げ分は診療報酬本体に振り分けられていた配分のルールを、突然反故にされ、消費税を隠れ蓑としつつ、強引に改定財源が実質削減された。
 今改定は、「社会保障・税の一体改革」が目指す2025年の地域包括ケアシステム構築を見据えた政府の医療体制を大きく変容させる意思を打ち出している。全容は見えないが主治医構想と、医療機能の分化・連携と在宅医療の充実を重点課題としつつ、フリーアクセス制を変えようとしている。その目的のためには、法律や自らが規定したルールを躊躇なく改定させている。現場の実情に合わない医療体制の導入や、在宅点数の極端な引き下げは地域医療に大きな影響を及ぼすことは明らかであり、グループホームの認知症患者が医療を受けられない事態を起こす。地域包括ケアシステムに向け必要なことは、医療と社会保障のあるべき姿に目を向けて、地域住民が安心して医療を受けられる、医療従事者が誇りを持って医療に従事できる社会保障制度の構築である。

1.初・再診料引き上げは消費税増税への補填分のみ 保険診療はゼロ税率にすべき
 初診料、再診料、入院基本料などの基本診療料が引き上げられたが、診療報酬に含まれている衛生材料、光熱費、事務機器等に係る消費税に対する補填分を基本診療料に振り分けただけである。しかも、領収証・明細書見本の欄外に何の説明もなく、今回の補填をもってこれまでの損税を無かったことにする「診療報酬や薬価等には医療機関が負担する消費税が反映されている」との文言が入れられている。
 度重なる診療報酬の引き下げで、現行の診療報酬には5%の消費税に対する補填は実質的に含まれておらず、医療機関で支払う損税が増大している。損税解消のために、保険診療への消費税はゼロ税率とすべきである。

2.在宅医療の「適正化」は医療機関に大きな影響 在宅医療は崩壊へ進む
 「在宅医療の適正化」を理由に、これまでの在宅医療の方針を大きく変更した。訪問診療を行うすべての患者に、①署名入りの同意書を作成しカルテに添付、②訪問診療の開始・終了時刻、診療場所のカルテ記載が必要となった。加えて、療養担当規則を改正し、患者の誘引が行われているか否かについてを①、②を参考に確認するとして、カルテから検査する権限を行政に生じさせた。
 また、在宅患者訪問診療料の「同一建物居住者の複数人に行った場合」の点数を50%引き下げた。さらに、在宅時医学総合管理料等にも同一建物居住者に対する点数を導入、現行点数を25%に引き下げるという暴挙が行われた。当会の緊急アンケートでは、今回の引き下げにより認知症グループホームに訪問診療を行う医療機関では月400万円の減収になるとの回答があり、経営への影響は甚大である。また、「施設等への訪問診療の辞退を検討する」「新規の依頼は受けられない」など切実な声が寄せられており、認知症患者の難民化のおそれがある。3月5日の通知で、同一建物居住者への対応について除外規定が示されたが、訪問計画や点数算定が複雑となり、医療機関の負担が増大するだけで、実際には対応できるものではない。
 一部の不適切な事例のために法外な診療報酬の引き下げを科すことは、医師による24時間の専門的な対応を評価せず適切に在宅医療を行っている医療機関の切り捨てであり、国が目指す地域包括ケアシステムに逆行する。すぐに改定の見直しを行うべきである。
 総枠でマイナス1.26%とされたほとんどを在宅でかぶった形であるが、パブリックコメント募集時にも大幅引き下げは提案されておらず中医協委員が決めたとされており、見識が問われる。また、厚労省は「サービス付き高齢者向け住宅等の施設の医師確保は、施設と医師会等が連携して行う」と説明している。

3.在宅に移行する前の外来診療で、主治医機能を導入 地域包括診療料、地域包括診療加算を新設
 医療費削減を目的とした地域包括ケアシステムの核となる「主治医機能」を評価する点数として、「地域包括診療料」「地域包括診療加算」が新設された。脂質異常症、高血圧、糖尿病、認知症の4疾患のうち2疾患以上を有する全年齢の患者が対象となり、両点数には、主治医機能の一つとして重複受診と薬の重複投与の見直す目的で、患者の服薬管理が求められている。具体的には、患者が受診しているすべての医療機関と、そこで処方している医薬品の管理を行う。また、医療機関は原則院内処方であるが、「患者を特定の保険薬局へ誘導すること等の禁止」とする療養担当規則を改定して、24時間対応等の調剤薬局と連携している場合は院外処方も可能とした。連携する調剤薬局については、埼玉県では24時間対応の届出を行った調剤薬局が今年1月以降、1500件以上増加している。大手の薬局チェーンが連携体制が整っていることを医療機関に宣伝し、地域包括診療加算の算定をすすめてくる可能性も否めない。
 これまで主治医機能の導入を目的として後期高齢者を対象に包括点数の「老人慢性疾患外来総合診療料」「後期高齢者診療料」が創設されたが、いずれもフリーアクセスの制限などの問題で廃止となった。今回の地域包括診療料はこうした点数導入の3回目となる。地域医療のゲートキーパー的役割を担う体制といえなくもないが、登録医制度やフリーアクセスの制限がかかってくることは間違いない。

4.入院 高度急性期病院の抽出と、データ提出による日本版DRGの準備
 入院では、7対1入院基本料を算定する医療機関が増加し、医療費が高騰、その一方で、看護師不足が謳われている。今回の改定では、増加した急性期病床を36万床から9万床削減することを目的に、①90日超入院患者の除外規定を狭め平均在院日数の算定対象とするか療養病棟を算定するかの選択を迫る、②自宅等への復帰率の条件を75%以上とするなどの要件をつけ、高度急性期病床とそれ以外とにふるいがかけられた。
 さらに、特定入院料以外のすべての病棟で「診療データの提出」が必要となった。データの提出は日本版DRG(Diagnosis Related Group)構築の準備に向けた動きである。改定された短期滞在手術基本料3では、病院において該当する手術、検査を実施した場合は選択の余地なく手術、検査等毎に設定された点数を算定することになっている。

5.維持期リハビリ:介護保険誘導を強化
 要介護、要支援者への維持期リハビリテーションは2016年3月31日まで延長されたが、介護保険への誘導強化が図られた。前年に介護保険の通所リハビリテーションの実績がない医療機関で要介護、要支援者へ維持期リハビリテーションを算定する場合は、90/100で算定することとなった。また、医学管理に介護保険のリハビリテーションに移行させた事を評価する点数が新設された。

6.精神科 薬剤の重複投薬に制限/入院から在宅への流れが作られる
 薬剤の多剤投薬の見直しとして、3種類以上の抗不安薬等、示された向精神薬剤の多剤投与を行った場合に薬剤料、処方料、処方せん料に減算規定が導入された。また、昨年6月に成立した改正精神保健福祉法では精神病床の機能分化が課題となっており、精神疾患患者を入院から在宅へ向かわせる地域の受け皿作りがすすんだ。通院・在宅精神療法が「通院精神療法」と「在宅精神療法」に区分され、在宅精神療法にのみ再診時に精神保健指定医等が60分以上行った場合の点数が新設されている。

7.点数評価に商取引の「妥結率」を導入
 許可病床数200床以上の病院に対し「医薬品価格交渉における妥結率が低い場合」に初・再診料等の点数が減算される仕組みが導入された。これにより、許可病床数200床以上のすべての病院で、毎年妥結率の報告が必要となり、恣意的に診療報酬と関係のない民間の商取引が初めて持ち込まれたことは大きな問題である。

8.改善運動にご協力を
 今改定も周知期間が施行日まで1カ月もない状況は変わらず、現段階でも不明な点が多すぎる。4月以降、追加通知や疑義解釈が乱発され現場が混乱することは必至である。現場を顧みない行政の不作為によって引きおこされるこの状況を打開するためには、十分な制度設計と周知に時間をかけること、また、保険診療を複雑な構造にしている法的根拠のない課長通知で運用する仕組みを変えることが必要である。改定における不合理な点数を指摘し、改善を求める運動を大きく展開していくために、ぜひ協会活動へのご協力をお願いしたい。

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