声明・談話

在宅医療点数(医科・歯科)の大減算改定に抗議し、早急な見直しを求める

 2014年の診療報酬改定で、医療関係者の予想を遙かに超える点数の引き下げが強行された。 今度の改定は、地域包括ケアシステムの構想を見据えて行われてきたとされており、事前より在宅医療 がどのように充実が図られるのか、大いに関心と期待を集めていた。 しかし、ふたを開けてみれば、一部に改善はみられるものの、医科歯科とも「不適切事例」への対 応として、「同一建物居住者」に対する診療報酬が、大幅に引き下げられることが突然通告され、実 施されようとしている。医科にも歯科にも共通するのは、訪問の対象施設や、対象患者の特性を踏まえずに、一律、十把一絡げに減算ルールを導入した点である。 地域で真摯に在宅医療に取り組んできた保険医、保険医療機関を窮地に追い込む事態も生じている。

 昨秋にメディアで報じられた「不適切な事例」や紹介ビジネスなどの荒稼ぎは決して容認されるも のではない。しかし、これらの一部の事例をもって、全ての保険医を対象とした大幅な点数表引き下げを強いる今回の改定は、前代未聞であり、あまりにも乱暴であり絶対に容認できない。 診療報酬の改定は、2月に答申、3月に告示がされ4月に実施が求められるという、他業界ではあり得ないテンポで行われるが、強行を可能たらしめているのは診療報酬に対する基礎的な信頼があってのことである。これまでも改定内容の提示から施行期日までの短さや、提示されるルールの不備により医療機関は耐え難い負担を強いられてきている。 これに加えて、今回は突然に報酬評価が四分の一に引き下げられるというあまりにも酷い大幅切り下げが断行された。これほどの大幅な引き下げは、医院経営の根幹を揺るがしかねない程の激震となっていることを、政策決定に携わる政府関係者、中医協委員等は再認すべきである。
 中医協は、1月16日のパブリックコメント募集時にこれほどの大減算をなぜ表記していなかったのか。点数表に反映されたのは、どのような経過であったのか、大いに疑問が残る。 また、中医協における昨秋の議論では、「紹介ビジネス」に対し、診療報酬や療養担当規則の改定のみならず、法律等でこの不適切事例の主導者(仕掛け人・"主犯"側)である紹介業者側にも何らかの規制を設ける必要についての発言が、診療側委員のみ ならず、保険者側からも出されていた。 しかし、今回の改定において、診療側には大減算と取り締まりルールが設けられた一方で、利益を追求する紹介業者側に対する取り締まり方は示されていない。厚労省は保険診療や医療保険が健全に運営されるよう責任をもって対処にあたるべきである。 こうした診療報酬の歴史で最悪である乱暴な点数表改定は、診療報酬への信頼を根底から覆すものである。二度と繰り返しては ならない。

【医科改定について】

 医科では、「在総管(在宅時医学総合管理料)」「特医総管(特定施設入居時等医学総合管理料)」という、投薬等を含めた24時間対応を前提とする一月の管理料を 「同一建物」に入居しているかを要件として、1日に複数人を診ると、評価を四分の一とする改定が断行された。医療に係わる管理料が、居住環境によって異なることの矛盾が問題である。
 今回の強調されている「不適切な事例」が生ずる余地のない中等度から重度の認知症患者だけが少人数しか入所しないグループホームまでも、同様に取り扱ったことなどは、不見識も甚だしい。オレンジプランを推進させ、急増する認知症患者の介護の切り札としてグループホームを推奨してきた厚労省が、今回のようにグループホームへの訪問診療に著しく規制をかけ認知症医療を軽視する暴挙は、認知症急増時代への施策としては重大な失策である。3月に入りグループホーム等の訪問に対しては、複数の入所者を同一日に診なければ減算しない、とする緩和策が提示された。が、同一施設に日を変えて訪問することは医師にとって莫大な負担がかかるために殆ど実行不可能であり、医療上の必然性が全くなく、現実的な緩和策とは到底言えない。一方で、長年診てきた認知症患者を切り捨てるわけにはいかず、赤字収支を前提として訪問診療を行うという苦渋と加重負荷に悩む会員の声が協会には多く寄せられている。
 そもそも悪質なサービス付き高齢者向け賃貸住宅(サ高住)の経営事業者によっては、契約した医師しか居住者の訪問診療を認めないという、患者の意に沿わない訪問診療も行われている。「主治医の選択権」を侵害する事態こそ、厚労省は取り締まるべきである。今回の診療報酬改定では人権侵害が横行している紹介ビジネスを免罪しかねない失策ではないか。正にこれらこそ「不適切」な厚生行政ではないか。
 この改定により逆ざやが理由で、施設への訪問医が減少する事態の見込みについて、厚労大臣は国会において「地区の医師会に紹介をさせていただく」との説明が繰り返されている。逆ざやなものを医師会が引き受けられるのか疑問もあるが、厚労省は何の根拠があって、こんな新たな「紹介業」を担うのか。前代未聞で、不見識も甚だしいと言わざるを得ない。
 また、中医協で はこれほどの引き下げが議論された記録はないが、厚労大臣は衆参の予算・厚労委員会で繰り返し「中医協での結論」であることを強調している。中医協委員らの認識を問うてみたい。

【歯科改定について】

 歯科訪問診療においては4年前から、診療時間を20分超とする時間要件が導入された。我々は医療行為の評価を時間で縛ることについて導入当初から反対し撤廃することを求めていたが、今回の改定でも廃止には到らなかった。今回は、歯科訪問診療において「不適切事例」の取り締まりを御旗に掲げ、訪問する「患者数」の多寡のみに着目して点数引き下げが断行された。同一日に「同一建物居住者」を複数を診た場合の「訪問診療料2」は75%に引き下げ、10人以上を診た場合には「訪問診療料3」が新設され、従前点数の380点から143点へと、38%の水準に引き下げた。介護施設へ訪問診療をしている歯科医院は深刻な経営的打撃を被ることとなった。
 そもそも、医科では、特養や老健には嘱託医や看護師を配置する制度があり、診療報酬以外にも社 会保障財源の手当がある。しかし、歯科は診療報酬のみで補っているのが現状である。今回のように、介護施設、マンション、サ高住など全ての建物を、同一視したうえで「同一建物居住者」への歯科訪問診療が引き下げられれば、将来的には介護施設に訪問診療を行う歯科医師はいなくなることも起きうる。今回の改定は施設の入所者が歯科医療を受けられなくなる危険性を生じさせたともいえる。

【結び】

 既に我々は、2月28日に医科の改定内容の見直しを厚労大臣等に要請しているが、4月の改定実施を目前に、医科歯科で共通する在宅医療分野の切り捨て策が看過でぎず、声明を発することとした。
 「同一建物居住者」という一括りにより点数の大幅減算をルール化しても、紹介ビジネスで荒稼ぎする営利事業者がいなくなる保障はない。だが、今回の改定により、間違いなく真摯に訪問診療を実践してきた医師・歯科医師は失望と怒り、不信に陥っている。 在宅医療に取り組んできた医療機関の培った経験や養成されたスタッフ達は地域の財産であったはずであるが、減算ルールにより、財産が維持出来得なくなる。何より、もっともらしく「社会悪を正す」としながら、保険医療の運営に責任もつべき厚労省が、きめ細かに適切にルールを作成しなかったことは、最悪の不適正行政であり、地域医療・在宅医療を崩壊させかねず犯罪的でさえある。
 患者、市民らと共に、安心できる地域社会を担っていく意志を持つ医師・歯科医師として、今回の 改定内容に対して特に声明を出すものである。
 こうした、現場医療の実情を軽んずる改定を我々は容認しない。断固として抗議をするとともに、 早急に改善することを要求する。
2014年3月26日
埼玉県保険医協会 2014年3月度理事会

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