声明・談話

日弁連意見書(健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書)を読んでの補強意見

2014年9月5日
埼玉県保険医協会 審査・指導対策部部長 小橋一成
 日弁連が、指導と監査の改善に関する意見書をまとめ、広く周知をしていただくことは、長年にわたり改善運動をすすめてきた私たちにとっても、大変、歓迎すべきことである。
 日弁連の意見書は国内の立法、行政に対して与える影響は絶大であるが、医療界にとって深刻かつ特殊な事案である、「指導」と「監査」について、法律家の見地から、人権擁護に必要な配慮や検討を求めてくれている。本意見書に対して、親愛と信頼を寄せるものである。
 しかし、故にこそ、残念な点が散見できることも申し添えなければならない。以下、意見書に補強をいただきたい事柄を示す。
 
Ⅰ 主な補強意見
1.行政手続法の適用に関する言及がないことについて
2.現場実態との乖離と不正確な引用などについて
3.「指導」と「監査」の混同について
4.人権救済のために
1.行政手続法の言及がないことについて
 意見書の指摘、言及範囲は、過去の歴史を医師会との申し合わせまで遡り言及しつつ、最近の自主返還金額の紹介など幅広い。意見書も20頁を超える充実さである。しかし、改善や検討を求める指摘において、行政手続法に反する現状運営、指導大綱そのものが行政手続法に抵触する事実などに一切触れていないのはどうしたことだろうか。
 行政手続きの透明性や、手続き保証の権利性を憲法13条、幸福追求権に求めることに加えて、行政手続法に反する現状の指摘が一切見られないのは、法律家の意見書としては、大変に不自然である。個別指導において行政手続法の着実な適用を要求すべきでないだろうか?
2.現場実態との乖離と不正確な引用などについて
 例えば、個別指導における「中断」は、予定していた時間内に指導が完了しなかった事例のみが紹介されているが、実態は、予定時間内であっても、厚生局側の一方的な判断で打ち切られて、「中断」にされてしまうことも珍しくない。
 「中断」が被指導医に及ぼす効果、影響は意見書の指摘のとおりである。行政側が一方的に「中断」することが、個別指導の現場で生ずる最大の人権侵害ともいえる。
 例えば、「平成24年度には、4302件の個別指導、13622件の集団的個別指導が行われ、40億5599万円の自主返還が行われた」(5頁24行~)として、自主返還に関する論説がされているが、不正確である。指導大綱の理解がされているのか疑問も生ずる。
 集団的個別指導は自主返還は求められない。
 意見書では未紹介だが、平成24年度の新規指導は6103件が実施されており、自主返還金額40億~には、こちらの件数が関係している。
 自主返還が求められる指導の種別は、多くの開業保険医にとっては周知の事実である。
3.指導と監査の混同について
(1)意見書では、「指導から監査が連動」していることを、問題点の一つとして指摘し、法令根拠を随所に示しながら「指導」と「監査」の目的にも言及している。改善提案として、担当機関の分離まで提案がされている。しかし、改善を求める重要な指摘のいくつかにおいて、混同がある。
(2)連動性や担い手の分離を指摘しながらも、意見書が言及をしていないのが、両者における質問検査権の有無である。
 そもそも、「指導」は行政指導であり、健康保険法は個別指導において質問検査権を認めていない。指導大綱においても同様である。大綱の実施要領においてようやく質問検査権の行使が示唆されている。
 現状の運用とは乖離が大きく、直ちに法に則った運用と遵守の困難性はあろう。この点は昨年秋に厚労省が発出した、個別指導時にカルテの提示を求める事務連絡においても顕著であった。日弁連意見書において、この点を避けることは、指導と監査の改善の本質を避けることに他ならない。

(3)例えば、患者調査に配慮を求めている点。個別指導の目的から鑑みて、患者調査の実施が必要だろうか。患者調査における「配慮」の指摘は「監査」のみとすることが本質ではないか。患者調査は監査でのみ許されるべきことといえる。事実、意見書で引用している患者調査の事例は監査におけるものであろう。
 配慮の要求は現状運営における当面の改善策としての条件付きであろうか。

(4)例えば、中断において正当な手続きを求めている点。「監査」が時間内に終了しない場合、その日の監査は終了し、近日中に再開するということは、現場では見受けられる。健康保険法や監査要綱の目的に照らせば、予定時間に終了しなければ、後日に改めて、続きを行うことはありうる。
 一方で個別指導における中断は、時間内であっても、監査との連動性、個別指導の監査的運用の面から、厚生局から一方的に宣告され、中断中に患者調査が行われているのが現状である。
 こうした個別指導の「中断」に対して、正当な手続きや期間の短縮化を要求することは、片手落ちである。当面の改善策としては、最低限、被指導者側の同意を得て「中断」とすることを求めることが必要である。
4.人権救済のために
 意見書では、是正の方向性が指摘されているが、現行の運営を担保している指導大綱の問題点を指摘するなどの具体的指摘がされていない。また、人権救済のためには、過剰な行政裁量、換言すれば、厚生労働大臣の裁量が、どの程度まで容認されるのか、という点の言及や改善方策が期待される。
 
Ⅱ.意見書における7つの改善要請に関して
1. 「5 患者調査に対する配慮」、「6 中断手続の適正な運用」については、既に言及した。
 中断件数の把握の必要性は、意見書の指摘のとおりである。しかし、意見書の言う厚生局長や都道府県知事は、統括者でなく、実施主体者であり責任者である。
2.「7 指導と監査の機関の分離及び苦情申立手続の確立」について
 分離の要求としての例示を具体化するには、法改正が必要と指摘がされている。しかし、なぜ、厚生局と県を例示したのか不明である。
 現状では、一部の地域を除き、厚生局と県は、ほぼ一体で運営主体者として個別指導と監査を担当している。担い手を意見書のとおり分離するだけでは、実態が伴わない。意見書の言及は中途半端である。
3. 「3 弁護士の指導への立会権」「4 録音の権利性」について
(1)弁護士帯同について、地域格差はあるが、委任状を示し、隣に座り、発言もできる埼玉県などの事例では、指導が遅延するなどの格別の問題も生じていない。そのような事例を打ち出して、認められていない地域を含めて全国的に認めていくことを求める積極性を打ち出すべきではないか。

(2)現状の立会人の他に、別途担保が必要なのは、その通りである。問題は現在の立会人には守秘義務が課せられていないため、関係団体に所属をしていない保険医の指導実態が、関係団体に漏洩していた事実も過去に散見されていたことである。立会人に対する規定規則も必要ではないか。
4.「 2 指導対象とする診療録の事前指定」について
 質問検査権が生じない個別指導においては、診療録の閲覧そのものが不適当ともいえる。厳密に言えば、診療録を指定することそのものも不適当である。
 
Ⅲ 意見等に関するその他の指摘
1.3つの問題点について
◯手続きの不透明性
◯指導の密室性
◯連動の実態
をあげている。
これらに共通する問題点としては、個別指導が行政指導として運用されていない、という点である。また、健康保険法に規定されている、73条、78条の趣旨で、運用がされていない、という点である。「監査的指導」の実施が可能となる論拠や解釈は、厚労大臣や運営者側の「裁量」とされている。
法令に則り、「指導」と「監査」の峻別を実践することで、3つの問題点も解決に向かうのではなかろうか。
2.憲法31条の運用について
 指導と監査はいずれも行政処分でないことから、憲法31条を直接的に適用させることは難しくないだろうか。敢えて、処分における手続き性を担保する憲法31条を引用しているのか。不要ではないか。
 
以上

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