論壇

女性の能力活用に向けて  時代の変わり目 英知を出し合って

秩父市  新井 恵子
 安倍首相は、二〇一四年十月「すべての女性が輝く日本に」というスローガンを掲げた。保育園待機児童問題を解決し、女性を管理職に登用するという構想だ。日経メディカル二〇一五年一月号でも「やめない女医の作り方」が主題になった。子持ちでも常勤は当たり前、人事には公平感が必要という要旨である。公平感あるシステムを作り上げるための取組みも書かれていた。時代は変わりつつある。
 保育園を作って、女性を管理職にすれば、女性は男性と同じ働き方を好むであろうか? 否であろう。スーザン・ピンカーというアメリカの女性臨床心理士の「どうして、女性は昇進を拒むか」という性差について書かれた本がある。内容を簡単に書くと、「学校という狭い社会では、学業成績は概して女性の方が高いが、卒後、リスクのあるビジネスや創造性で成功するのは男性の方が多い。男性は女性よりも競争で勝つことを好み、女性は優秀であっても競争に参加しない。
 男性は一般的に機械や数学に興味を持つが、そうした女性は少ない。女性は共感能力やコミュニュケーション能力が求められる仕事を望むことが多いが、男性はこの傾向が弱く人への関心が薄い。女性が高給を交渉しないためか、共感能力に対する報酬は高くない」というものである。
 わが国でも肯ける例が思い浮かぶ。スーザンは個人差もあるが、こうした性差の傾向を考慮することなく、一律的な制度を考えるのは間違いであるとまとめている。なぜなら、女性は男性の欠陥品ではなく、また男性も女性の欠陥品ではないからである。定年退職した男性が「家庭の粗大ごみ」でないように、子育て中の女性も「会社のお荷物」ではない。
 時代の変わり目の現在は、女性医師が増えることを危惧する人も多いと思う。厚労省でも本年一月に「女性医師のさらなる活躍を応援する懇談会」の報告書を公表したが、まだ始まったばかりである。
 そこで、共感能力に的をあてて、私の知っている医師達をご紹介したい。
 代替医療は西洋医学よりも、共感能力や愛や祈りを大切にしていると思われる。ある代替医療の勉強会に参加した。放射線科、眼科などの専門医を持ちながらも、代替医療をするために、敢えて専門科では非常勤で働く女性医師達に出会った。短時間診療とは違う質の高い心のケアをされていた。
 また、地方都市で認知症患者診療のネットワークを作った精神科の女性医師の講演を聞いたことがある。最初のきっかけは、周辺症状(BPSD)は患者さんが問題なのではなく、環境が合わなくなったから発症するのだという患者さんへの共感である。コミュニュケーション能力を生かして施設間を連携し、患者さんに合った施設を探した結果、認知症のネットワークができあがり、地方都市ではなくてはならない存在になられていた。講演中、「私が医局の昇進コースからはずれていたことはわかっていただけると思います」と言われていた。
 まだ今のところ数は少ないが、戦力にならないと思われている女性医師の発想が新しい医療を生む可能性はある。過渡期の今は、私の知るところだけでも、様々な問題を聞く。「助教にしてやるから、今、子供は産むな」と言われた女性医師(その言葉を言わざるを得ない医局長も懸命に生きている)、三〇%の女性を管理職にという社風の中で過労に倒れる女子社員、食事をどちらが作るかの折り合いがつかず離婚したカップルなどである。
 「先進国の中で、最も女性の能力が活用されていない日本」と言われる我が国であるが、時代の変わり目の今こそ、英知を出し合ってそれぞれの問題を解決し、成熟した日本社会が創られることを願ってやまない。

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