論壇

ストレス・チェックで労働環境が改善させられるか

富士見市  里村 淳
 今日、町中にあふれている精神科のクリニックは、日常のストレスによる心身の不調で来院する人でいっぱいである。さまざまなストレスがある中でその代表は仕事のストレスである。
 それによる精神の障害は、多くはうつ病あるいはうつ状態であり、それも、まじめで働きすぎからくる「うつ病」もあれば、ささいなことで長期休職に至る、いわゆる「新型うつ病」などといわれるものもある。
 前者の中には、過労死自殺に至るものもあり、後者は決して重くはないが、治りやすいとは限らないという特徴がある。このようなストレスに敏感な労働者に対して、企業はその対策に追われている。
 仕事のストレスから長期休職に陥っている社員はけっして少なくなく、企業の生産力の低下にもつながっている。したがって、仕事あるいは職場のストレスから休職を余儀なくされる労働者の問題は、企業内の問題にとどまらず、社会問題にまで発展している。そのような状況を背景に、企業における職場の安全衛生管理が見直されるようになった。
 厚労省は平成26年6月、労働安全衛生法の一部改正により、「ストレス・チェック制度」を公布。
 平成27年12月1日から、従業員50人以上の企業に労働者に対して行う心理的な負担の程度を把握するための検査や、検査結果に基づく医師による面接指導の実施などを義務付けた。
 検査の結果、ストレスの程度の高い者(「高ストレス者」)で、検査を行った実施者が面接指導の実施が必要と認めた場合、面接指導を行うのである。あくまで労働者がメンタルヘルス不調に陥るのを未然に防止するのが目的であり、病気の早期発見早期治療ではない。
 また、面接の結果、残業時間の短縮、休日出勤の制限、職場の変更など、労働環境の改善勧告も含まれている。
 職場のストレスといっても、過重労働、不向きな業種、職場の人間関係、特に上司のストレスなどいろいろある。検査を受ける側の者にとって、正直に回答することに躊躇する場合もあるが、決してそのために不利益を被ることはないような配慮もなされている。したがって、かなり労働者の立場に立った法令改正であり、そのことをよく知らなかった企業や政治家の中に、「ふたを開けてみたらびっくり」ということがあったという。
 しかし、このストレス・チェック制度に対しては、その意義を疑問視する人も少なくなかった。制度が始まったばかりで、その成果について評価する段階ではないが、検査を受ける労働者にとっては、まだなじみの薄いもののようである。
 また、職場のストレスで精神科に通院しているにもかかわらず、ストレス・チェック制度の検査を受けても、かならずしも「高ストレス者」と判定されるとは限らないようである。
 企業によっては、このような対策がすでに自主的に行われているところもある。昔は、労働者の権利といえば、労働組合が先頭に立って活躍していた時代があったが、今日では、国家の主導で労働者の権利の保護や労働環境の改善がはかられるなどを考えると、まさに隔世の感がある。
 しかし、このような法令改正にともなって、あらたなビジネスチャンスが生まれるのはいつの世でも同じで、早くも、制度実施の手伝いをする会社が続々誕生し、面接を行う医師をかき集める業者も出てきた。
 将来、精神科医も医師過剰の時代が来ると言われているが、この制度は労働者だけではなく、ワーキング・プアな精神科医にとっても、めぐみの制度となるかもしれない。

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