論壇

医師の過重労働  開業医の視点も添えて

戸田市  福田 純
 長時間労働の多忙な医療現場から真面目な医師が自ら命を絶つ。睡眠時間を削り働き続け、仕事の効率や精度が落ち、簡単なことをも失敗するあまり自分を責め、精神を病んでいく。命の尊さを決して蔑ろにしてはならない医療者がその最も基本的な事さえ判断出来なくなる程、追い込められていたのであろうか?
 日本の医療は皆保険制度のおかげで、費用対効果やその質において、世界から最高レベルとの評価を受けている。しかしながら、その裏には医療者の献身的な働きが寄与してきたことは否めない。
 勤務医の過労死報道がある度に、かつて我々開業医も過労死ラインを超える医療現場に身を置いていた過去が思い起こされる。当直と言う名の夜勤ゆえ36時間を超える連続勤務は当たり前。大学病院勤務当時、時間外労働との認識もなく、勿論時間外手当の存在すら知らなかった。
 そんな因習が常態化し、医師の過重労働を前提とした勤務体制は今も続いている。1998年、日本で初めて長時間労働による研修医の過労死が認められた関西医科大学研修医過労死事件の裁判で、大学は研修医を労働者と認めない立場を崩さなかった。
 政府の長時間労働を是正する方策を盛り込んだ「働き方改革実行計画」は、医師への規制適応に5年猶予が与えられた。その理由は残業時間を規定通りに実行すると医師不足、人件費高騰が顕著となり病院経営は困難になる。それを〝応召義務がある為〟と苦しい言い訳を持ちだした。医療者の命を削ってまで〝応召義務〟を課せられるいわれはない。
 そんな中で、日本医師会会長は「医師を労働者と考えるには違和感がある」と暗に医師は労働者ではない!と認識するような発言で物議をかもした。「医師は崇高な使命を持ち、応召義務もある医師は…」と言いたかったのかもしれないが、過労死する医師が沢山出ている現実に、医師会長の見解は「医師は守られない!」と感じざるを得ない。
 労働基準法の36(サブロク)協定は、労使協定で話がまとまり、労働基準監督署が認めれば、過長な労働時間が認められる。この協定の結び方で、先日驚愕な事例が報道された。国立循環器病センターで月300時間までの時間外労働が労使交渉を経て決定。1日10時間の残業を連日可能とする契約である。真っ当に考えれば尋常でないことくらい判るはずである。
 NPO法人医療制度研究会副理事長の本田宏氏(元済生会栗橋病院院長補佐)が常に言い続けている「医師の絶対数が足りていない。医師は偏在などではない」は、私も同感である。ところが医師の過重労働の話題はほとんどが勤務医のもので、開業医のものは皆無である。
 開業医の多くは個人事業主であり、労働基準法の適用外である為だろう。労災の蚊帳の外に置かれる開業医も診療報酬を礎に糧を得ている観点から、診療という労働から報酬を得る点で、れっきとした労働者であると私は考える。
 国は2025年に向けて、在宅死を増やすよう診療報酬の改定を画策し、在宅医療を手掛ける開業医を増やすよう誘導してくると思われる。しかし、既に在宅医療の診療報酬は下げられており、報酬アップは望めない。ならば、外来診療だけでは食べていけないようにする。要するに在宅診療という〝出稼ぎ〟に赴かないと経営が苦しくなる方策を強制的に行ってくる可能性が考えられる。しかも、在宅診療の24時間縛りのある点数を取らなければ経営(生計)が苦しくなる点数配分とするであろう。
 埼玉県は人口当たりの医師数が全国最低。加えて、県南部はこれから国内トップの高齢化率が予測されている。県内の開業医は否応なく「全国一働く」ことになるだろう。
 診療時間に学校医や休日当番など診療外活動を含めると優に過労死レベルの80時間を超えることになる。医療や介護の現場は、かようなブラック的要素に満ちている。
 ブラック企業は経営者が変わったり、経営者の意識が変わればブラックでなくなる可能性はある。しかし、国が推し進める医療・介護現場の〝ブラック産業化政策〟において、長年劣悪な医療・介護環境の常態化を見て見ぬふりをしてきた厚労省が医師の過重労働(過労死)問題、また介護職の低賃金など労働環境改善に真摯に取り組めるのか、はなはだ疑問である。

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