論壇

持続可能な国民医療皆保険制度のために
(超高額なレセプト請求を考える)

戸田市  福田 純
 日本の国民医療費は41兆円を越え、今後高齢者が増え、さらに医療技術の進歩により今以上に医療費が増加すると想定される。言うまでもなく、医療費の原資は税、保険料、自己負担金である。これらそれぞれの捻出にはおのずと限界があり、既に限界に達している人たちや保険者もいる。特に経済的弱者(生活保護者や一部の特定疾病の助成制度利用者を除く)は生活の困窮から、受診制限を強いられている現象が見られている。
 風邪や癌など疾病の種類に関らず、疾病治療の原則は「早期発見・早期治療」である。初期医療の遅れから、予期せぬ合併症の併発、治癒の遅延や重症化。そして死に至る例も散見される。この受診抑制により、重症化や寝たきり化を余儀なくさせられ、亡くなっていく過程で、かえって医療費がかさむことになっている。
 そんな中、先日「健康保険組合連合会」の高額医療者レセプト請求額を見る機会があり、その額に驚愕した。全国でたった1カ月の請求額がなんと1億円を超える請求が2枚。加えて、上位100位のレセプト額は1カ月当たり1600万円を超え、これら上位100人の疾患名は循環器疾患が41人、次いで血液疾患34人であった。どんな医療が行われているのであろう?
 このレセプト請求の半分以上は高額な医薬品によるものと推察できる。高額化する医療費のため、国民皆保険制度の持続可能性が危ぶまれている声が聞こえる中、一握りの人を助けるがために、それより多くの命が削られている現状に対して、何らかの方策があってしかるべきであろう。
 皆の税金や保険料は無尽蔵ではなく勿論、自己負担にも限度がある。その中で医療保険制度はどの形態が持続可能であるのかを、それぞれの立場を考慮しつつ、多くの人々の総和的現実路線を出すべき時期に来ている。
 かつて、日本の医療は質、コスト、アクセスなどの点で世界から称賛されてきた。事実、2005年の時点で平均寿命は世界一。日本の高齢化率19.5%(OECD平均7.5%)の時点で、一人当たりの医療費はOECD平均と同等レベル8.1%にあり、順位は35カ国中17位と、非常に費用対効果が良かった。
 ところが2012年には対GDP比はOECD平均9.3%に比べ10.3%(10位)に上昇した。この急伸は失われた20年の経済低迷(停滞するGDP)を分母にし、分子にはかつて他国が経験していない急速に進む高齢化にあるためとされている。2015年にはOECDの最新基準にある介護要件が導入され、これによりさらに1%増え、高額な肝炎治療薬などの保険導入も加わり、一気にOECD3位にまで駆け上り、もはや「日本の医療は安い」という神話は消え去った。
 これにより国は、薬剤のジェネリック化に邁進したり、年金受給者の自己負担を増やしたり、毎回の受診時に加算点数をつけることを検討したりと、今まで以上に国民負担増の医療費抑制策を加速させてきている。だが、対策の対象は低医療者に向けるべきでない。
 先にも述べたように、病初期初動の遅れは患者の病状を悪化させ、医療費は減少しないばかりか、不幸な国民を増やすだけである。高額医療を是正する方向性が望ましい。
 日本の薬剤コストは世界と比べ決して安くない。無力な国民に受療圧力をかけるのでなく、製薬会社・製薬業界にもっと交渉圧力を挑むべきであろう。さらに高額薬の多くは外資企業製で、日本の貴重な社会保障費が外国にむざむざと流出してしまう。これらも鑑み、各省庁(通産省・財務省・外務省など)の協力のもと交渉にあたるべきである。
 医療制度の危機がせまっている。この観点から多くの医療人は国民に先立って考え、一定のコンセンサスポイントを見出す必要がある。現実的な「最大多数の最大幸福」の着地点についての議論を早急に始めるべき時に来ている。先延ばしはもう許されない。

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