論壇

ストレスチェック制度のその後

富士見市  里村 淳
 職場におけるメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的に、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対し、2015年12月から年1回のストレスチェックとその結果に基づく面接指導などの実施を義務付ける、「ストレスチェック制度」が発足して3年目に入った。開始1年目の2016年に論壇でこの制度の紹介と問題点を指摘した。制度のその後の経過はどうなったのだろうか。
 産業精神医学関連の団体では制度の実施状況などについて活発な議論が行われ、いくつかの問題点が指摘された。制度に対する企業の理解はまだ十分とは言えず、心理的負担の程度の把握が目的であるが、病気の早期発見・早期治療や職場でストレスの症状を把握するためというとらえ方をする企業が多いことがわかった。「高ストレス者」はどこの職場でも平均10~12%であるが、医師面接を受けたのはその内のわずか10~12%にすぎない。
 厚労省によると、制度が義務化されているとはいえ、2017年7月の時点で国全体では受検率は78%、医師面接指導は0.6%という結果である。制度の特徴のひとつに、産業医による職場改善勧告があり、その期待は大きいが、その前に、制度の普及と理解はまだ十分とは言えず、有効に活用されているとはいえない状況である。
 医師面接でわかった主なストレス要因でもっとも多いのは職場の人間関係で、次に仕事の量的負担であったが、その点については予想の範囲内といえる。
 近年、わが国に多くの外資系企業が進出し、その結果、いわゆる成果主義が台頭してきた。企業に忠誠をつくしていれば誰でも定年まで面倒をみてもらえる、終身雇用制度は徐々に影が薄くなってきた。終身雇用制度は普通の労働者にとって、ある意味で保護的な職場環境である。今日では、一流企業に就職した者でも転職は当たり前となった。伝統的な職場の価値観や人のあり方が崩壊し、世知辛い世の中になり、上司によるパワハラ、セクハラ、あるいは過重労働で心身の不調を呈し、なかには自殺するものまで出てきた。
 また、些細なことですぐ辞める職員が多くなり、国としても労働者のこころの健康に介入せざるを得ないところまできて、それがストレスチェック制度の義務化にまでなったのであろう。こころの問題に国家が介入することに疑問を呈する者も少なくないが、それはともかく、制度が軌道に乗って有効に機能するようになるには、まだまだこれからと言ってよい。
 この制度は従業員50人以下の中小企業は対象となってないが、中小企業の職場のこころの健康問題は大企業より深刻な面もあるがまだ放置された状況にある。さらに、労働組合はその歴史的役割を終えたかのようにも見える。組織率の低下、組合役員の高齢化と後継者不足。そればかりか、うつ病で長期の休養を余儀なくされている組合員も少なくない。今日では、労働者の相談は労基がその役割を担うようになったといってもよい。教育現場ではさらに悲惨な状況である。長期休職者の増加、保護者のクレームから現場の教師を守ることができない校長や教頭、無力な教育委員会。いまや労働環境は総崩れの様相を呈していると悲観する者も少なくない。
 価値観の変化とか多様化などということでは済まされない。これからの時代に耐えうる、わが国に合った職場のあり方が求められる時代に来ているのではないだろうか。しかしその気配はまだ見えない。ストレスチェック制度が早く機能し、職場環境の改善に役立っていく日を待ち望む。

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