声明・談話

診療報酬改定に関する理事長談話

2010年3月
埼玉県保険医協会
理事長 青山 邦夫

1.新政権の初改定は失望─主導権発揮できず官僚シナリオを継承
〇・〇三%引上で実質ゼロ改定
診療所引下で地域医療の崩壊さらに深刻

 今改定は政権交代後、初めての診療報酬改定であり、大いに期待が寄せられていた。昨夏の総選挙では各政党が医療崩壊を直視し改善を公約に謳い、特に民主党はマニフェストINDEXにおいて「総医療費対GDP比をOECD加盟国平均まで今後引き上げる」「地域医療を守る医療機関の入院については報酬を増額」「患者の自己負担を増えないように」「抜本改革に関する目標と工程を定め」などの約束を掲げ政権に就いた。待ったなしの課題への着手と地域医療の再生に向けた体力回復が期待された。

 しかし、政府公称の改定総枠は〇・一九%(診療報酬本体がプラス一・五五%、薬価・材料がマイナス一・三六%)にとどまった。改定率の算出に含めなかった「後発品のある先発品の追加引き下げ」を盛り込めば、全体の改定率は僅か〇・〇三%であることも判明。医科は本体一・七四%(四八〇〇億円)の引き上げで、救急、産科、小児科、外科等の再建、勤務医負担軽減などの重点評価がされた。とりわけ急性期入院に重点配分がされたが、一方で外来は〇・三一%(四〇〇億円)の引き上げに止まった。

 今改定で顕在したのは、民主党が主導権をほとんど発揮できなかったことである。医療界全体の底上げが期待されていたにも関わらず、予算は財務省に、改定内容の実質は厚労省の思惑に沿って進められた。新政権への期待は大きかっただけに、開業医には大きな失望感が拡がっている。一部の外科領域を除けば、前回までの「医療費削減の改革路線」が一層推し進められ、厚労大臣の国会答弁なども反故にされている。

 予算折衝、事業仕分けにおける不誠実なデータ提示など、開業医からの財源移転手法が踏襲された他、病院・診療所の評価統一、地域への貢献など、様々な口実が駆使され、診療所の再診料引き下げが断行された。開業医ラッシュが喧伝されるが〇八年は東京、千葉等の都市部においても開業医は減少し始めた。基本診療料や汎用点数の引き下げは、診療所の経営を益々厳しくさせ、地域医療の崩壊を一層促進する結果になる。

 前回に引き続き、単なる点数の引き下げ、政策誘導、傾斜配分の手法に加え、診療報酬の算定にあたり、算定要件の細分化、算定対象者の限定、施術担当者の要件設置など、厚労省や保険者が管理をしやすい要件の導入が進められた。また、外来・在宅における連携をはかりつつ、一人の患者に対する算定制限を一層強化している。次回の介護保険との同時改定も見据え、病床種別による役割分担と在宅との連携、医療機関相互の連携の他、急性期とそれ以外の医療、コメディカルとの連携強化も進められた。

2.再診料引下を正当化する地域貢献加算は廃止に
外来管理加算は従前の要件に戻すべき

 今改定を象徴するのが診療所における再診料の引き下げと「地域貢献加算」の創設である。厚労省政務官を筆頭に早々に診療所の再診料の引き下げが示唆されるとともに、地域に貢献している医療機関を評価するという方便で加算が創設された。基本点数の評価を下げながら、不当な名目と評価による加算創設の手法は、断じて容認できない。 患者に応対すべき時間帯も「二四時間、三六五日」(佐藤医療課長)、「準夜帯・時間外」(足立政務官)など、厚労省責任者の見解は不統一で、通知に明記もされていない。本加算の杜撰さを体現している。課長の言い分を要件化しているが、これでは開業医は常時緊張状態を強いられ、当たり前の社会的な生活が出来なくなり、実質算定できる診療所はほとんどない。

 そもそも、時間外に患者の初期対応を引受けたくとも、紹介出来うる後方支援の病院や病床が不足しているために、引受けられない実情が現場にある。開業現場では、準夜帯はおろか午後の通常診療時間でさえ、紹介引受先を確保することが困難な状況にある。この悪循環を阻止し、地域の病床確保策を図らない限り時間外の対応は拡がらない。「地域医療貢献加算」創設を口外した関係者は現場を知らないどころか、地域医療は崩壊してもよいという考えを持っているとしか思えない。

 外来管理加算の問題は、前回改定時の中医協議論で厚労省が捏造データを提示したことも判明し、多数の医療機関に経営上、深刻な打撃を与えたことも承知がされていながら、今改定では「五分」の要件を外したのみで、純然たる算定要件の見直しは放置された。返って「お薬受診」との不明瞭な要件が加えられ、現場は喪失感のみならず、新たな混乱の危惧感を抱くことになった。

 時間軸の要件は通院・在宅精神療法に残され、多数の患者を診ながらも各々の患者の実態に応じて柔軟に対応している精神科にとって、実質的に大きな引き下げを強いた。眼科、耳鼻科、皮膚科の汎用点数引き下げなども経営にも悪影響を及ぼすことが確実である。

 リハビリテーションの細分化は急性期と維持期の区分けが鮮明になり、対象疾患による点数の区分けも一層進められた。保険給付上の制限は改められていない。

3.療養担当規則の問題点─健保法に違反する「明細書」発行義務化は撤回を

 そもそも健康保険法における、保険医療機関の本来の役割は、患者に対する医療の提供と一部負担金の受領(関わる領収証の提供)であり、患者に医療費の内訳提示やその説明義務は定められていない。明細書の発行義務化は明らかに健保法違反である。保険者や国に求めるのが本筋のものである。

 「明細書」発行の義務化は、ギリギリの体制で診療にあたっている医療現場に様々な混乱をもたらすであろうこと、患者のプライバシー漏洩の危険性が高いこと、領収額と対比し過剰に詳細な内容の必要性など、様々な検証が不十分なまま、中医協では診療側の反論が遮られ義務化が決定された。患者の「知る権利」の高まりは事実であろうが、大多数の患者の希望とはいえず、法に反した義務化を決定した中医協の議論は再検証が必要である。七月からの「義務化」施行の前に、必ず撤回すべきである。

 また、医療費の「明細書」と銘打っているが、DPCの病院には、包括点数のみでは内容が不明であるため、診療内容を明細書に記すこととしている。患者の「知る権利」に乗じ巧みに、医療内容の情報提供が求められている。レセプト請求が電子媒体・オンライン化へ省令変更がされたが、今後、電子請求に伴い、包括点数の医療内容の詳細記載が求められる可能性を示している。

 後発医薬品の一層の使用促進のため、療養担当規則に「患者が後発医薬品を選択しやすくするための対応に努めなければならない」ことを盛り込んだ。前回時には、後発医薬品の処方を努力義務としていたが、医師の処方権にこれ以上踏み込めないと判断した厚労省は、患者への選択肢提供を努力義務とした。

4.保険診療の原則を歪める人頭制的な算定制約が随所に

 患者への保険診療と報酬請求は各医療機関ごとに行うことが原則であるが、今改定では新たな制約を医療機関に求めている。入院患者の他医療機関受診を制限するために、入院点数の減額や外来医療機関における算定制限の適用などが一層強化され、また、対診時の評価は臨時以外は認められず、在宅医療における専門医の療養指導管理料も原則として認められなくなった。報酬は、後日、医療機関の間の合議によることを前提としており、保険診療の算定原則をなし崩し的に変化させている。

 これらは、人頭制に通じフリーアクセスを否定しかねないものである。また、一人の患者に対する管理・連携を患者への啓発なしで、診療報酬により推進する手法は、現場に多大な負担を強いるものであり容認できない。適切な連携の在り方については、医療者と患者双方に然るべき周知を行うべきである。

5.厚労省・保険者による算定要件の詳細な管理へ─明細書に患者評価を添付

 時間要件やカルテ記載などの算定要件の他、今改定では、患者状態・医療情報の提示、レセプト添付が算定要件化された。脳血管疾患等リハビリにおける廃用症候群「評価表」、療養病床におけるADL区分の「評価表」などの導入は、患者の状態をスケール化して保険者が判別することが目的とみられ、介護保険における認定審査を彷彿させる。処方箋における医療機関コードを記載する欄が設けられ、審査や保険者における突合を容易にした。

6.入院短縮化と退院促進─外来・在宅医療とのネットワーク機能体制の強化

 入院では急性期の評価により入院期間の短縮化がさらに進められている。様々な加算点数も創設されているが、中小規模の病院では算定が困難なものが多い。地域医療の再生とは逆行する改定となっている。退院時の連携点数の新設など、入院を減らし医療機関以外において医療を行うことを、前回に引き続き一層進めたことも今改定の特色である。従前に増し一人の患者に様々な職種が関わることが一層評価され、連携点数も多数創設された。

 九〇日超入院に患者に対する入院基本料の逓減・包括化が後期高齢者のみならず、全年齢に拡げられたことは厚労大臣が「廃止の方針」と国会答弁をしていたはずで、新政権改定における大きな矛盾である。療養病床の点数は、細分化され軒並み点数が引き下げられている。世論の批判を受け、病床削減の実行は先送りされているが、引き下げにより実質的に病床削減が進んでしまう。早急な改善策をとるべきである。 療養病床の役割として長期療養患者の入院に留めず在宅医療の後方支援も位置づけている。

 前回改定で居住系施設の概念を図った在宅医療分野は、今改定では「同一建物」に着目し、異なる患家の訪問診療でも一律に算定制限することとしたが根拠がない。撤回し改めて「同一施設」などの整理を図るべきである。

7.新たな改定周知方法にも注意喚起─外全ての県で厚生局が説明会開催

 厚労省は改定内容を二つの新しい方法で提供した。一つはインターネットによる厚労省の説明会会議資料の同日配信と会議中継の配信である。もう一つは全国全ての県において「集団指導」と称して厚生局が改定内容の説明会を、全保険医療機関に対して開催したことである。迅速で透明性のある改定内容の周知については、歓迎すべきであるが、それでも、周知期間は施行日まで一カ月もない状況であり、現段階でも解釈には不明な点が多々残されている。膨大な制度変更には期日に余裕が必要である。また今回の全県説明会により個別指導等における指摘が厳しくされる可能性にも十分に注意したい。

 明細書発行の義務化阻止をはじめ、今改定における不合理な点数を指摘し、改善を求める運動を大きく展開していきたい。多くの会員にはぜひ協会活動にご協力をお願いしたい。

以上


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