論壇

政府は今こそ原発事故の正しい情報の開示を

川越市 時田 信博
 
 今回の原発の事故は想定外の津波が起こったためと弁明しているが、菅政権のこの大惨事への対処も同様に想定外であった。福島第一原発の事故で直ちに修理を必要とされている時に、東電や原子力保安院の忠告を退けて現場の視察を自分の権限で強行した。その結果、一六時間の遅延が余儀なくされ、大切な初期の処置を遅らせてしまった。三月十一日に原発から三キロ圏内の退去という避難指示をだし、翌日は一〇キロ圏内に拡大、十五日は二号機で爆発が起こり今度は三〇キロまで屋内退避、さらに自主退去と次々に危険区域が広がっていった。それらの地域に住む人々は、津波の被害ではなく、目に見えない放射能のために、今まで住んでいた我が家を去って避難生活をしなければならない。津波で倒壊した家なら諦めもつくが、何の損傷もない家を見捨てるのはさぞつらいことであろう。
 
 政府はその後も事の深刻さを明言せず、「直ちに人体に影響するものではない」などと報道し続けるが、次々と原子炉が不調になり情報を訂正、そしてまた訂正の繰り返しである。
 
 私は、米国のCNN、ABCニュース、そして英国のBBC放送をよく見るが、全く別の報告をしていた。それは菅政権が国民への影響を恐れて、本当のことを報道していないというものであった。政府が三〇キロ圏内の避難を発信したとき、米国は在日米国人に八〇キロ圏外に出るよう指示していた。英国、カナダ、オーストラリアもそれに従い、在日の自国民に勧告した。米国は独自の方法で福島の放射能汚染の状態をいち早く調査し、このような対応を自国民にしたと放送していた。その後の原発事故の経過から判断すれば、菅政権が本当は何を考えていたかが想像できる。
 
 さて政府は、常に我々医療機関に診療内容を開示するよう指示し、カルテ開示、明細のわかる領収書発行などと、医療の透明性、ディスクロージュアを要求してきた。審査・指導はそれを強行するものでもある。我々が、個別指導の対象となった理由や選定の基準を開示するように求めても、答えないことが多い。行政自身が透明化もディスクロージュアもほとんどしていない現状である。これでは一方通行である。行政は我々を罰することが可能だが、我々は行政を相手取って罰することは困難である。
 
 しかし、今回の原発事故の対応では、国際社会が菅政権を罰してくれたようである。政府の原発への不十分な対応は海外からの信頼をなくし、大きな障害が生じた。欧米、中国、アジア諸国は日本への観光旅行などの自粛を呼びかけ、日本製の食料、水産物の輸入規制をしている。そして食品以外のものまで放射能の汚染の可能性があるからと輸入制限をしている。原発事故前に入札することに成功した企業の中東への大規模な原子炉と発電所の輸出プランも見直しを余儀なくされた。
 
 菅政権は、国民の反応を恐れ、被害を小さく見せようと事実を発表せず隠してきたが、事実が次々と塗り替えられており、我々だけでなく近隣諸国の人々も怖くてたまらないであろう。
 
 今、何より大切なことは、原発事故を収束させるため、日本人のみならず世界の英知を結集して被害を最小限に食い止め、一刻も早く終息させることである。それがなければ経済の復興はない。
 
 政府は医療では我々に常にディスクロージュア、透明性を要求している。一方、自らはディスクロージュアを決してせず、国際社会からは冷淡に見られている。しかも改善する様子は全くみえない。その態度を根本から改めない限り、日本の未来はない。その狭間でいつも苦しむのは国民である。
 
2011年5月5日埼玉保険医新聞掲載

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