論壇

今年を振り返る
大震災は何を我々に教えているのか

上尾市 小橋一成
 
 本年最大の出来事は三月十一日に起こった東日本大震災と福島原発事故である。平凡な日常生活が一瞬のうちに失われ、悲惨な状況がもたらされることを見せつけられた。八カ月経った現在でも復興の足音は聞こえてこない。原発事故の影響は未だに拡がりをみせ、その収束の見通しがつかない状況である。
 現在なお、多くの国民は不安と不信の中に置かれたままになっている。その原因は自然災害である地震そのものの影響もあるが、人災的な影響も負けず劣らず大きい。
 大震災直後より現在に至るまで、政府から正確な情報、それに対する確固たる信念とその根拠を示した国民への説明があっただろうか。いまだに情報開示は小出しで遅く、全体像がわかるようになっていない。
 政府は、我々国民を信用していないのでは、と案じられる。いつも「大丈夫だ。心配ない」というだけで、その根拠は示されない。現在でも国から正式な放射能汚染分布、汚染度は示されていない。これでは、不安な状況に置かれるのは当然のことである。

震災前の医療状況は

ところで、今回の被災地域は医療過疎地で医療崩壊がすでに進んでいた。救急産科小児科に限らず、すべての科で医師をはじめとして、医療関係者の絶対的不足が起きていた。
 その原因は多々ある。一例をあげると、七年前に起きた福島県大野病院産婦人科事件がある。帝王切開手術で妊婦が死亡した。たった一人の医師では対処することは不可能な重症患者であり、より設備陣容の整った中核病院へ搬送すべき事例であった。結果的には医療事故ではなく、無罪判決を勝ち取ったものだ。当時、マスコミ、検察、警察、県の事故調査委員会すべてが医師に責任があると断定した。一部の地域住民もそれに従って医師への非難を繰り返した。直接、本人に事実関係を確かめることなく、世間の風潮に乗った、何でもかんでも医師が悪いという「医者いじめ」だった。そして、その後は一層地域での医療崩壊が進行して行った。

大震災は新たな再生の転機に

そして今回の大地震である。
 被災者住民の復興のために「何を一番やってほしいのか」という、質問に対し、圧倒的に多い要望は医療介護の充実である。その解決策としてさまざま提案されている。
 しかし、政府、地方自治体、大企業等が考えているのは、経済特区の導入であり、その中で大企業の経営する大病院を建設するというものである。今まで何度も失敗してきたやり方である。建物設備はできるが、肝心の意欲ある医療関係者が集まることはない。
 医療資源には限りがあり、有効に使わなければいけない、という視点が必要である。
 中核病院は絶対に必要であるが、そこで軽症の入院患者や外来患者を治療することは本当に必要なことであろうか。第一線の医療機関で分担できることが、まだまだたくさんあるのではなかろうか。そういった、現状を人々に伝え、考えてもらうことが大切である。

震災復興は医療再生から

政府は上から目線ではなく、地域住民の強い要望を大切にすべきである。幸いなことに、今回の震災で被害にあわれた人々の粘り強さ、辛抱強さ、危機にあっても堂々たる態度に対し、多くの人々が感動した。国民の中に家族や地域社会の大切さが心に刻まれた。あとは現在、医療崩壊は被災地域だけでなく全国で起きていることを理解していただけたらと思う。
 震災復興は医療再生が第一歩であると認識すれば、おのずと解決する道が開かれると思う。我々日本人は目的が定まれば一致団結して解決に向かっていける。政府が、大震災、原発事故のみならず、TPP(環太平洋連携協定)においても情報を開示せず議論しようとしないのとは大きな違いがある。

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