論壇

個別指導から見えてくること
この国は本当に法治国家と言えるのだろうか

上尾市 小橋 一成
 

 九月に開催された関信越指導監査対策担当者会議で、大磯義一郎弁護士の講演を聞き、個別指導の法律の体系について整理する機会を得た。そこで、改めて現在行われている個別指導の矛盾について実感させられた。
 個別指導を受けた会員からの報告を聞くたびに大いなる疑問が生じる。「いったい何を目的とした指導なのだろうか?」「どういう法的根拠に基づいた指導なのだろうか?」「指導する指導医・事務官は個別指導を『行政指導である』という認識を本当に持っているのだろうか?」等々。
 もちろん、保険診療は保険医療機関および保険医療養担当規則(省令)や点数表などにより、一定の規則の下に行われることは理解している。そして、個別指導の実施方法は局長通知である「指導大綱」、さらに、詳細を規定している事務連絡の「指導大綱実施要要領」に基づいて行われていることも、である。
 これらは法律的には、厚労省内の内部基準であり、我々保険医が本来拘束されるものではない。しかし、百歩譲って健康保険法と行政手続法に基づいた指導であると規定しても、様々な矛盾が露呈をしている。
 一九九四年にできた行政手続法に照らして検証してみる。例えば、強制的と感じる「いわゆる自主返還」にはどういう意味があるのか?行政指導は、指導により改善させるものであり、ペナルティーを科してはいけないことになっている(第二条六)。自主返還を求められても、「自主」とあるからには強制ではなく、指導される側の任意の協力が必要であり、それに従わないからといって、当局が強制した場合には違法となる(第三二条)。
 選定理由も、求められれば開示しなければならないことになっている(第三五条)。しかし、現実には、選定理由の開示を求めて裁判が行われたが敗訴したことにより、厚生局がそれを盾に原則として「選定理由は説明しなくて良い」と言っている。これも非常におかしな話である。専門家によれば、地方裁判所での判決は法的拘束力を持たないのである。
 次に、「個別指導でカルテを指導医に閲覧させることは法的にどうなのだろうか?」個人情報保護法が施行された当初、当時の埼玉社会保険事務局長は、個人情報保護法に抵触しないとの見解を出した。しかし、法律では、監査については患者の同意は不要となっているが、行政指導には触れていない。医師には守秘義務があり、患者に承諾を得ず診療録を開示する場合は、その法的根拠を明確に示してもらわないといけない。
 行政手続法・個人情報保護法などは、行政による長年の無作為が問題となりできた法律である。本来ならば、これらの法律が成立した時点で、それぞれ関連する省令・指導大綱・通知・通達なども見直しを行わなければならなかった。それが個別指導では放置されたままであり、旧態然たる思考で運営されていることが根本的な問題だと考えざるを得ない。
 そもそも、個別指導の大本の法律である健康保険法も大正十一年に制定されたものであり、戦後にできた日本国憲法、とりわけその中の第二五条「国民は健康で文化的な最低限度の生活を有する」の趣旨に相反する内容が含まれている。
 特に、「厚生労働省令で定める」とされている条文は、厚生労働省が法律は制定しないが、省令で立法権を持つかのごとくに行政権を行使するという、権力の濫用を防ぎ、国民権利と自由を保障する、三権分立を壊す構造ができ上がっている。
 そのため、法に基づく監査・処分等を行政官僚の裁量ひとつで行えるようになり、国民にとって権力に対して防御不可能な状態におかれている。今の個別指導の理不尽さはこれに由来しているのではないか。
 民主国家であるならば、早急に関連した法律に基づき指導を実施されたいものである。


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