論壇

算定要件・施設基準・届出による誘導に対し熟考を~投了しないために~

春日部市  渡部 義弘
 突然だが、藤井聡太七段の驚異的な才能と躍進ぶりは記憶に新しい。最近将棋に似た流れを感じるものがある。そう、診療報酬改定である。
 近年の診療報酬改定は、量(点数)よりも、質(加算・要件・届出)の変化が主であり、地域医療構想・地域包括ケアシステムなど新しい医療の姿を目指し、ロードマップに乗せて改変していく手段と化している。しかも、その「理想形」は現場の実態や要望からは程遠く、また患者の利益も侵害する方向にある。今改定の具体的な例をあげ、何が狙われているのかを考察したい。

Ⅰ 「かかりつけ医」機能のあからさまな保険医療への導入
 「かかりつけの医師(医院・病院)」と「かかりつけ医」とを多くの医師が混同している現状につけ込む様に、医科初診料に「機能強化加算(80点)」を導入した。通知に「地域におけるかかりつけ医機能として…」なる文面があり、「かかりつけ医」とは機能強化加算を算定しうる施設基準を備えた医療機関のみを指すことになる。
 これにより、「かかりつけ医」の定義が不十分として保留になっていた「『かかりつけ医』以外を受診する場合、保険外の定額負担を選定療養として検討する」という旧来の改悪案が息を吹き返す可能性が出てきた。「非かかりつけ医」受診に対し一定のフリーアクセス抑制がかかり、機能強化加算を算定する方向へ圧力がかかるだろう。すなわち、地域包括診療加算、小児かかりつけ診療料、在医総管(支援診のみ)等の算定要件を満たす、端的にいえば患者に24時間対応できる医療機関が要求されることになる。しかも、これらの届出は、厚労省の思惑通りに増えていないため、常勤換算や夜間対応等で条件緩和が行われた。しかし、医師の過重労働に変わりはなく、使命感で仕事はできても、インペアドパフォーマンスは避けようがない。
 さらに、地域包括診療加算等の算定要件に「他の医療機関を受診する場合、急を除いて担当医に相談」との説明書のついたゲートキーパー機能と解釈し得る同意書の取得が追加され、加算を取ると、もれなく厚労省の施策に協力できる(?)システムになっていることは理解しておく必要がある。

Ⅱ オンライン診療料に早くも規制緩和の動き
 保険診療に組み込まれたオンライン診療は、保団連の要請などが生かされ、強い制限がかかる内容となった。しかしながら、今年6月4日の未来投資会議では服薬指導などをオンラインでとの考えが出されており、それに呼応して国家戦略特区として兵庫県養父市などが名乗りを上げ、診察から処方薬入手までをオンラインで完結するプロジェクトが浮上している。
 医療機関として、オンライン診療が可能であることが、機能強化加算等の施設基準となり得ると考えるのは大げさだろうか。

Ⅲ その他
 「地域医療構想」の推進は、在宅医療への患者の流入につながり、在宅医療の需要は増大する。しかし、近年の在宅の改定内容は、ひどいの一言である(前月号論壇、柴野氏)。在宅医療を担う医療機関以外の専門診療科医療機関の参加の呼び水とするため、在宅患者訪問診療料(1)の「2」を新設して多くの医療機関の協力を誘導しているが、姑息さはぬぐえない。最終目標の安上りの川下の医療が目的であることが見え透いている。
 多くの医療関係者は、日々の診療に追われ、告示・通知から1カ月弱で施行される診療報酬改定に対して、十分内容を吟味する時間を割くことは不可能である。一方で、厚労省・財務省の専門部署では、一年中それを検討し、都合よく医療を動かす体系の形成に余念がない。毎回のように全容をフォローし難い多数の算定要件を定め、届出義務を強化している。
 我々医療従事者や患者の意思と関係なく、彼らの「理想の」医療の枠組みに我々を追い込んでいく。たとえ最善手でなくても、手を打っていかなければ、圧倒的な力の下、勝負は決してしまう。投了に追い込まれないよう、団結して患者である国民や国に問題点を発信し続けていこう。

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