論壇

歯初診にみる施設基準 必要な研修は国が手立てを

三郷市 土田 昌巳
唐突に出てきた研修
 2018年(平成30年)診療報酬改定で初再診料とも3点という小幅な増点ながら、「歯科初診料の注1に規定する施設基準」(歯初診)を新設。「歯科外来診療における院内感染防止対策の推進」という名目で「歯科外来診療の院内感染防止対策に係る研修を4年に1回以上、定期的に受講している常勤の歯科医師が1名以上配置されていること」が必要な条件になった。施設基準を満たさないと初診料8点・再診料4点の減算というペナルティも付くという念の入れ方は、毎度のことながら呆れるばかり。
 歯初診の届出はかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診) の施設基準になっており、その上で「歯科疾患の重症化予防に資する継続管理に関する研修(口腔機能の管理を含む)、高齢者の心身の特性及び緊急時対応等の適切な研修」を修了することも求められている。在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の施設基準に歯初診の届出要件はないが、「高齢者の心身の特性(認知症に関する内容を含むものであること)、口腔機能の管理、緊急時対応等に係る適切な研修」の修了が求められている。
 経過措置が1年ほどあり、この間に研修を受けなくてはいけない義務感と焦りが蔓延していた当時の雰囲気を思い出す。

県内歯科医師での噂
 当時の埼玉県には笹井指導医療官がいたため、様々な噂が県内歯科医師の間で広まっていた。「特定の講師によるセミナー」「歯科医師会の修了証でなければ認めない」などといった話だ。関東信越厚生局指導監査課に確認したところ、これらは事実ではないことが判明した。

研修会を実施するには
 会員からの研修会を希望する声は日に日に高まっていたが、研修の要件がはっきりと示されなかった。厚労省は歯初診の研修内容を、日本歯科医師会、日本歯科医学会が作成した資料に準じた内容であるとしながらも、詳細な情報を出さず、協会へ事前に研修資料の提出を求めた。
 埼玉協会は6月に厚生局に提出し、8月30日に実施することができたが、一部地域では研修会の内容について告示・通知以上の詳細な指摘を受け、結果として、医療機関は研修会受講後の届出手続きが厚生局で留置きになる等の不合理が生じていた。

全国での混乱
 九州ブロックでは5月26日実施した研修会の内容が九州厚生局より「高齢者の心身の特性の内容がフレイルに偏りすぎていて内容が不足している」と指摘され、参加者の歯援診とか強診の新規の届出が不受理になる事態が発生。九州ブロックの複数の協会で同様の指摘があった。
 改定から3カ月たった7月10日。疑義解釈(その5)として、か強診の施設基準の「歯科疾患の重症化予防に資する継続管理に関する研修(口腔機能の管理を含む)」は、どのような内容の研修が必要かについての回答がされたが、8月に保団連が集計した「歯科診療報酬の施設基準に係る研修会の実施及び届出状況に関するアンケート」では、全国で8協会が問題ありと回答した。事前に十分な情報提供もなく、後付けで注文を付けてくる場当たり的な対応と言われても仕方がない。

歯初診の研修は4年に1回以上
 4年という期間にエビデンスがあるかはさて置き、運転免許証のブルー3年とゴールド5年の間を取ったような感じである。ちなみに2018年の運転免許保有者数は約8200万人で、1年間でなんと約23万人が免許更新を忘れて「うっかり失効」をしているという。定期的に期限を確認する習慣や、通知のハガキでも完璧に防ぐことはできない。まして、歯初診の研修では期限切れを通知してくれるサービスもない。うっかり失効してしまい施設基準を満たさないために診療報酬等の返還が求められるのはあり得ない話ではない。
 施設基準として研修を義務化するが、肝心の研修内容は外部に丸投げで大混乱。この姿勢からは歯科医療の質を上げたいという思いが感じられない。義務化にかかわらず、国が責任をもって必要な研修を実施し、無理なく受講しやすいような手立てを講じることこそ重要ではないだろうか。

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