論壇
昨年世界を揺るがした三つの“f” に続くもの・・・と
戸田市 福田 純
世界人口は今や六八億にもならんとしている。この人口増加が人間社会や地球環境に重大な問題を惹起している。人類は十数万年前、わずか一〇〇〇人足らずでアフリカの大地を旅立ち、世界中に拡散した。さらに約一万年前、狩猟生活から森を切り開き、時に火を放ち田畑を開墾し、農業を会得した。農耕により食糧は安定供給され人口は急増。食を得るための時間が減ったため、中世には文化が花開き、それが十八世紀の産業革命へと繋がり、続く工業化が更なる人口増加をきたした。一般に文明の程度とエネルギー消費は相関すると言われている。多くの化石燃料が使われた結果、大気・大地・河川・海洋は汚染。特に大気は組成の変化により地球温暖化問題を提起している。
日本は明治の開国以後、狭い国土で資源も乏しい中、富国強兵・重工業化を目指した。常に原材料と動力源獲得が生命線で、結果、石油獲得のため太平洋戦争に突入した歴史がある。二十一世紀になった現在も、エネルギー自給率はわずか四%、食料自給率も三九%と乏しく、この水準は国家の安全保障に抵触している。
さて、そんな折、昨年日本の生活者に多大な影響を及ぼし、大きな不安を与えた三つの“f”がある。一つ目の“f”は昨年初より急騰した原油“fuel”価格。この値上げであらゆる物品の輸送価格上昇に止まらず、電気料金の値上げや漁船の操業停止にも及んだ。その“fuel”と連動して、穀物価格が急騰。二つ目の“f”は食料“food”でその大元である小麦の値上げでパンやヌードルなどが上昇し、国民生活を揺るがした。さらに地球温暖化に「やさしい」との理由からトウモロコシなどがバイオ燃料に変えられ、飼料用穀物が品薄となり、これにより食肉(鶏・豚・牛)や乳製品価格の高騰を招いた。ところが昨年末には原油価格は急落し、ガソリン価格も一時の六割程度に下落。これらの価格変動は必ずしも原油需給量に相関していない。市場原理が支配する投機家に操作されているためと言われる所以である。
加えて、米国発サブプライムローン問題からリーマン・ショックをきたし、それを契機に世界同時株安・三つめの“f”“finance”金融危機が勃発。以後、雪崩を打って雇用悪化、経済不況が起きている。一部の無責任で強欲な人たちの所業が世界の大勢の人々の生活を苦しめている。さらに新自由主義(ネオコン)が支配する社会では社会的弱者を創生し、それにより貧富の格差が拡大。一層、失業者などの生活困窮者が増加している。現状のままでは社会情勢の不穏から、理不尽な凶悪犯罪の増加が危惧される。
一方、これらとはまったく別次元の問題ではあるが、近未来にH5N1強毒型鳥インフルエンザ(flu)から波及した四つの目の“f”新型fluの出現が懸念されている。一度発生すると一九一八年のスペインかぜを上回る未曾有の被害(死者数百万?とも)が想定されている。Fluの世界的大流行パンデミックにより、医療者は疲弊し医療資源は枯渇する。
被害を極力少なくするには事前の準備が必須であるが、この不況下において為政者は予算不足を言い訳にする。日本の経済損失は五〇兆円以上とも試算されており、危機管理の一環として事前の準備は充分でありたい。
これら山積する諸問題に人は互いの正義を譲らず、いがみ合い、小さい集団内の私利私欲を追い求め争い事をしている。このような時期に今、新たに人類発祥の地アフリカにルーツを持つ男バラク・オバマが、アメリカ国民のみならず、多くの人々から期待をこめられ、世界のひのき舞台に登場した。
金融の混乱や経済不況の打開、格差社会と暴力の是正。宗教紛争やテロの解決。エネルギー問題と密に関連する地球温暖化。食糧問題は飢餓や疫病に直結する。あらゆる分野に過剰期待が高まる中、彼の大統領就任演説にもあったように、彼ひとりに任せずに各人各様、皆が力を合わせ人知を尽くし、誠意を持って早急に行動すべき時に来ていると思われる。
2009年2月5日埼玉保険医新聞掲載