声明・談話
<日経社説に抗議>3月9日社説「レセプト完全電子化を後退させるな」に抗議し正確で公平な報道を求めます
2009年3月31日
日本経済新聞社 御中
3月9日社説「レセプト完全電子化を後退させるな」に抗議し正確で公平な報道を求めます
埼玉県保険医協会
理事長 青山 邦夫
私ども埼玉県保険医協会は、埼玉県内の開業医師・歯科医師3,670人が加入する団体です。
御社は3月9日の社説でレセプトオンライン請求義務化(以下、「義務化」)について取り上げました。現在、医療界全体が反対している「義務化」を「レセプト完全電子化(以下「完全電子化」)」と取り違えた上、医療界の反対運動を日本医師会等の圧力を匂わせて、「ガラス張りの請求への抵抗」などという指摘をしています。
社説では、「請求事務の効率化や人件費の圧縮」「病気の種類ごとに治療法を標準化する作業にも弾みがつく」と述べ、「義務化」の必要性を強調していますが、これは医療現場と診療報酬の仕組みに対し、あまりにも無理解です。
そもそも、現在実行に移されつつある「義務化」は次のような問題があります。
①システム構築に当たって莫大な費用が投入される一方で、医療機関等にとっては紙レセプトの取りまとめや送付が「電子化」される程度であり、現場の請求事務や人件費の圧縮に支払い側で「役立ち」、医療機関側で「役立つ」ものではありません。
②現行の診療報酬には定額制や「マルメ」が多く採用されており、レセプトデータを電子化しても、個々の医療行為や検査・投薬について一つひとつ分析し、「病気の種類ごとに治療法を標準化すること」は不可能です。医療の質向上を目的としない単なる医療費の多寡の分析、すなわち総医療費抑制のためにしか機能しません。
③レセプトデータがひとたび漏洩すれば本人はもとより、疾患によっては家族や子孫まで深刻な影響を及ぼしかねません。このように「義務化」は、貴紙の社説と逆に、患者及び国民の著しい不利益をもたらすものです。
すでに本年1月、「義務化」は「違憲・違法」であるとして、神奈川県保険医協会を中心に全国の保険医が原告団を結成し、「請求義務化撤回」を求めて横浜地裁に提訴しました。全国に先駆けて原告団への参加を呼びかけた当会からは100人が参加、全国では二次提訴分をあわせて1740人が参加し、1,000人規模の医師・歯科医師が原告になる史上初の訴訟となっています。
しかし、社説では「義務化」を手放しで賞賛する一方で、「義務化」に反対する勢力を利益優先の「圧力団体」と決め付けており、「義務化」が持つ問題点、すなわち国民が受ける医療の改善や医療費の節約に寄与する可能性が少なく、営業の自由や立法手続きについても違憲性・違法性が問われていること、特に国民一人ひとりの医療情報が、危険にさらされるという重大問題には全く触れていません。
また、社説では「議員のなかには、...地域医療は崩壊するという声がある」としていますが、すでに地域医療は機関病院を中心に崩壊状態にあり、新聞各社でも医療崩壊が言われて久しくなります。
埼玉県内の開業医では60歳以上が40%以上を占め、当会の調査では「義務化」とされれば「廃業する」が医科で23%、歯科で17%ありました。厚労省令111号による「義務化」が地域医療を「破壊」することが懸念されています。
「義務化」には多くの問題点があるにも関わらず、マスコミでも取り上げられることは多くありませんでした。今回の裁判提訴を契機に、「義務化」撤回を求める世論が広がり、与党も問題視し始めているのです。
こうした実態を「世論の共感を得ようという思惑」や「票の取り込み」として論じることは、取材不足の報道を露呈することです。
われわれは、患者情報を守る立場から、また、「義務化」によって廃業に追い込まれる保険医を一人も出さないという立場から、御社3月9日の社説「レセプト完全電子化を後退させるな」に抗議するとともに、「義務化」が持つ問題点について、正確で公平な報道を心がけていただくよう求めます。
あわせて「レセプトオンライン義務化」問題について、意見と情報を交換させていただきたく、懇談の場を設けていただくよう、御社に要望するものです。
以上