論壇
認定制度を変質化させる新方式 介護認定審査会の再編を
三郷市 大場 敏明
ここ数年、介護崩壊が叫ばれる中、十年目を迎える介護保険制度。厚労省は、初めて「三%アップ」とする報酬改定と、新しい介護認定方式を四月から実施しようとしている。しかし、〇九年報酬改定が、実は「実質マイナス改定」であり、新認定方式で介護度が軽度化すれば、減収事業所が続出し、介護崩壊を促進しかねないのである。この論壇は、認定審査委員を約一〇年、審査会長を四年担ってきた地域保険医の、介護認定審査への惜別の辞でもある。
<さらば変質化!すすむ介護認定審査>
長年認定審査に関わってきた筆者だが、来期(四月)から介護認定審査を離れることになった。正直な話し、“もうヤッテラレナイな”という気持ちが少なくない。
一つは、新認定方式では、二次判定が明らかに軽視されていき、一次判定の変更をしにくく変質化されつつあること。二つ目に、新方式の一次判定ソフトでの認定が軽度に設定され、調査でも軽度化が進められていること。三つに、新認定方式の変更やその説明会などで、大銀行系シンクタンク会社の研究員が深くかかわっている事態に、疑問を感じたこと。以下、その内容を述べていこう。
<二次判定が形骸化する介護認定審査会は無意味に>
介護保険制度の根幹の一つである介護認定審査会では、コンピューターで出された一次判定と医師意見書などを検討し、変更指標などを参考にして二次判定(最終判定)を出してきた。これは一次判定ソフトでは全てを組みこめないために、より実際の利用者の状態に近づける修正が重要であり、公正・公平な審査という使命だと信じてきたものである。しかし、認定作業の「省力化と平準化(全国均一化)」を優先する新認定方式では、二次判定は軽視され、一次判定変更をしにくい制度に変質化させられていく心配をもつものである。もし一次判定で事実上の最終判定とするのであれば、二次判定は形骸化してしまい、介護認定審査会の終焉だと感じたのは私だけだろうか。
<一次判定が軽度化の新認定方法 寝たきりでも「移動は自立」>
新方式になれば、事実上の最終判定となる一次判定のプログラムソフトだが、三年前のソフト変更の時から、軽度化の傾向を感じていた。それが今回はさらに顕著になってきたようで、「要支援2」から「要介護5」までの各要介護度で、それぞれ二―三割の利用者の認定が軽度になるとのことである。その変更の一つに、調査段階での軽度化が、露骨にすすめられてきている(調査方法や判断基準を示す「認定調査員テキスト」の新版で)。例えば、「移動」「移乗」の調査項目では、重度の寝たきり状態の人の場合、従来なら「全介助」と判断されていたが、新テキストでは、歩行介助をしていないので「自立」を選択する判断基準になっているのである。
<大銀行系シンクタンク会社の関与で、認定制度の変質推進>
昨年末からの新介護方式の説明・講習会などで、大銀行系シンクタンクの研究員が講師のメインになるという前代未聞の事態に驚いたのは今年になって資料を見てからであった。「介護保険を大企業にマル投げか」と疑ったが、最近の小池議員(共産党)の調査や質疑の中から、実は深く関わっていた事が浮かび上がってきている。
<日本版ニーズ判定委員会への再編を>
そもそも、軽度化の手引きとなる新「認定調査員テキスト」を作成したのが三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社のスタッフだったこと、厚労省から〇七年度の「要介護認定適正化事業」の委託も受けていたこと。さらに認定方式改変を議論した、厚労省の「調査検討会」の席で、調査項目から「火の不始末」の削除を強く主張して決めさせるなど、新方式の策定に大きな役割を果たし、認定制度の変質を推し進めているのである。
筆者は、以前北欧の介護制度見学で、日本の介護認定審査会に該当するのが「二ーズ判定委員会」で、介護計画へ具体化する作業が、実に簡素で実効的であることに驚いた。この北欧に学んで、かくも変質しつつある介護認定審査会は、「日本版ニーズ判定委員会」へと改組すべきではと考える、今日この頃である。
2009年4月5日埼玉保険医新聞掲載