論壇
歯科医師「過剰」と医師不足
戸田市 穴井 恭市
今やコンビニよりも多いと言われている歯科医院であるが、不況も手伝って患者の受診抑制、診療報酬の低下により歯科医院の経営もかなり困窮した事態となっている。新しくビルやマンションが建設されれば、必ずと言っていいほど美容室、コンビニ、歯科医院が入ってくる。不景気なために経営不振で勤務医は開業を余儀なくされ、未だに急激な増加を続けている様子である。決まった人口の中で歯科医院だけが増えていくため自ずと割り振られる患者の数も減って当然であろう。今年4月の読売新聞の調査によると私立歯科大学の6割が定員割れを起こしているという。定員割れの背景には歯科医師の過剰感が上げられるというが、実際にも歯科医師数は90年の7万4千人から06年には9万7千人に年々増加している。
それに対して歯科医療費の総額は伸びておらず過当競争が目立つ。歯科医師「過剰」と医師不足、厚労省の人口10万人対医療施設従事医師・歯科医師数の年次推移を見ると不足しているという医師数は90年で171.3人、06年では217.5人である。それに対して歯科医師数は90年では59.9人06年では76.1人。単純計算で90年は医師一人に対して、約584人、歯科医師は1669人、そして06年は医師一人に対して約460人、歯科医師数は1314人、国民全員がかかりつけをもっているわけではないが歯科医師にとってはかなりの痛手となっているのであろう。このワーキングプア状態を打破すると銘打ち歯科医院には経営戦略セミナーや投資話の電話や迷惑ファックスが勝手に入ってくる。患者からのアポイント電話のさまたげになっている。歯科医院はまさに弱みにつけこまれ、いい食い物にされている感がある。自費診療(保険外診療)を増やし、他院との差別化や隙間産業的な経営も良いが、結局は患者の自己負担が増えるだけで、根本的な解決策にはならない。早いうちに受診せずに重症になってから仕方なく来院するようでは返って医療費がかさんでしまう。国はいかにして医療費を削減するかに躍起である。保険診療の平均点数が高いことを理由として個別指導にも選定される。個別指導を避けたければ、自費診療で儲けろと言わんばかりである。なぜ政府は大企業の救済には多額の税金を導入するのに、医療費の増加を目の敵にするのか。
健康が保たれ、労働ができて報酬を受け取ることで、初めて税金が納めることができる。健康は税金の源である。もう少し冷静に判断していただきたいものである。一昔前歯科医師が不足していたころ、国の無計画な方針により歯科医師「過剰」時代に突入し、今度は医師不足、政府はどのような方針でその数を増やすつもりなのか。今、我々歯科医師にできることはないのであろうか。悲しいかな歯科医師はいわゆる一般的に言うところのお医者さんではない。なぜなら歯科医師は医学部出身ではないからである。大学のカリキュラム自体も根本から違っている。医学部の学生ほど詳しく医学的知識を学んでいるわけではない。
しかし、医学が急激に進歩した昨今、我々歯科医師もかなり詳しい医学知識を要求されるようになってきている。病気のある患者についての本をめくって済ませるような知識では極端な話かもしれないが、患者の生命を危険にさらしてしまう可能性もある。例えば、今の歯学部の学生を医学部に編入させたり、既存の歯科医師を医科大学に研修させて、診療技術や医学知識の幅を広げる。
もちろん医師国家試験は不可欠であるが、准医師のような資格を与えて診療科目の拡大をはかる。一時しのぎかもしれないが、医師不足の解消に素人をゼロから教育するよりは早い。そして将来的には歯学部も医科大学に統合し、教養課程や基礎医学は一緒に勉強して専門課程の段階で内科、小児科、外科などと並列して歯科をもうけてはいかがであろうか。
医科、歯科の大学のシステム自体も変える必要があるが、そろそろ医科と歯科の壁を取り払い、歯科医師から歯科のお医者さんにバージョンアップをはかる時代に入ってもよいのではないか。
国民みんなが安心して医療サービスを受けることができる世の中になることを強く希望するものである。
2009年6月5日埼玉保険医新聞掲載