論壇
どうなった?後期高齢者医療制度
さいたま市 松本 光正
後期高齢者医療制度の廃止は一昨年の総選挙で民主党が公約し大きな争点として国民に訴えたテーマであった。そしてこの制度を廃止すると公約した民主党に国民は拍手喝采し大きな期待を寄せ、民主党は大勝した。しかし、この公約も他の公約とともに反古にされようとしている。一体、公約とはなにか、選挙目当てだけなのかと、腹立たしく思うのは医師だけではないはずである。廃止をしないというだけならまだしも、今回の最終報告は、改悪に等しい内容である。廃止と公約しながら、一層の改悪を進めるというのは呆れるほどの公約違反である。開いた口がふさがらぬとはこのことであろう。改悪により高齢者への差別はそのままで、さらに国民は負担増を押しつけられることになる。
民主党は二〇〇八年、共産党などの三野党と一緒に同制度の廃止法案を提出し、通過させた。当時の菅直人代表代行は同年六月十八日「長生きされて七五歳になった方に社会のお荷物というようなレッテルを貼る制度である」と同制度を酷評している。「負担の問題だけではなく、七五歳で差別するような制度は、断固として廃止させなければならない」と語っている。
ところが、厚生労働省が昨年十二月八日の高齢者医療制度改革会議で示した「新制度」の最終案は、七五歳以上の大多数を都道府県単位の国民健康保険に入れ、あくまで現役世代と差別し、別勘定にするものである。七五歳以上の人々の医療に費用がいくらかかり誰が負担しているかを明確化させて、それでさえ肩身の狭い思いで生きている人々に一層、狭い思いをさせて医療費の削減に追い込む狙いである。
これは「社会のお荷物というようなレッテルを貼る」後期高齢者医療制度と同じ仕組みであり、到底同制度の「廃止」と呼べる内容ではない。
高齢になればだれでも高齢者特有の状態が起こり、疾病も増える。高齢化の進展で増える医療費は、民間や個人が支えるものではなく、国が責任をもって支えなければならないものである。国の責任を無理矢理削減しようとする立場に、高齢者を差別する制度の根源がある。この立場ときっぱり手を切り、高齢者を別勘定にしない老人保健制度に戻すべきである。高齢者を枯れ木に例え、高齢者を別勘定にする国がどこにあるのか。全く恥ずかしい制度である。
「新制度」の最終案は、国の負担を増やすどころか、減らす方向ばかりである。言い換えれば高齢者の負担を軽減するどころか、増やす方向ばかりである。方向は、七〇~七四歳の患者負担の二倍化であり、医療費の一割から二割(一〇〇%アップ!)の負担となる。これは自公政権でも国民の反発で出来なかったことであるのに、民主党政権は強行しようとしている。
さらに、七五歳以上の保険料軽減措置の段階的縮小を含んでいる。これは高齢者の生活を圧迫し、受診抑制に拍車をかけることは間違いないことである。「新制度」の第二段階と位置づけられる現役世代の市町村国保の都道府県単位化も、医療費削減政策の一環である。市町村の税金投入で保険税の高騰を抑えるのを止めさせ、医療費の増加を保険料増加に直結させて、医療費削減に駆り立てる狙いである。
民主党は野党時代、医療費をGDP(国内総生産)比でOECD(経済協力開発機構)加盟国平均まで引き上げるという政策も示している。医療費削減のための「新制度」づくりは中止し、後期高齢者医療制度はすぐに廃止して、医療費の拡充にこそ向かうべきである。このままでは民主党の支持率が一層低下することは火を見るより明らかである。民主党内でこの問題を議論しているワーキングチームは窓口負担の倍増などについて「慎重な検討」を求めるという提言がでている。通常国会への法案提出は非常に厳しいという声も出ている。今後、一層の運動にて廃止を勝ち取ろう。
2011年2月5日埼玉保険医新聞掲載