論壇

審査・指導のローカルルールは作らせない

さいたま市 金子 久章

 医科歯科一体運動を行って随分と経つが、審査指導対策部として活動を行っている中で個別指導当日の持参物軽減や指導現場での録音や弁護士の帯同等勝ち取ってきたものは多い。そしてその中で医科歯科一体活動を行ってきたからこそ分かったこともある。レセプト審査についてである。表面上のシステムは医科、歯科、調剤全て同一であるものの所謂ローカルルールについては医科よりも歯科の方が遥かに多く、またそのことが診療現場を混乱させていることは否めない。

 この審査上の問題点は審査委員会という合議体がもたらす匿名性にも一因がある。また保険者からの圧力というものもある。

 では何故歯科の方が多いかと言えば、それは審査委員会から支払基金本部に安易に照会してしまうことにより、支払基金本部回答なるものが発せられ、それがローカルルールとなるのである。勿論、基金本部も厚労省に問い合わせる訳であるが、仄聞するところでは「巧みな照会の仕方により保険者に有利な回答を引き出してしまう」というのである。従って基金本部に照会した都道府県にのみローカルルールが適応され縛りが発生する。そして次の診療報酬改定の際にはそれが通知となって全国区の解釈となってしまうのである。

 その理由は医科の場合は標榜科により専門外の審査員が担当しないようになっている。例えば内科のレセプトを眼科の審査員が見ることはほとんどない。これによりある程度専門外のことは行わないようになっているため、審査現場である程度の処理が可能である。しかし、歯科の場合は歯科という標榜科が主である。そのため専門外の審査員や保険に疎い審査員もおり現場での判断がつき難く安易に基金本部に照会する習癖があるようである。支払基金本部には日本歯科医師会から推薦された委員もいるがその人物を経由しないため機能しないのである。

 また、医科歯科ともに審査員は埼玉県の場合、実態は、県医師会長・県歯科医師会長の推薦であるため長くその地位を保つ場合が多い。内規では再任の際に七〇歳を超えていないこととされているものの、実際に診療を行っていない審査員等もあり、必ずしも現場に即した審査となっていない場合もあるようだ。その場合、診療現場の感覚ではなく机上の審査基準にこだわるあまり、事務主導の疑義付箋に対して一律の返戻や査定を行う傾向が強くなる。そうなると二次審査においても保険者からの再審査請求に容易に応じてしまうことになる。

 この行為もまたローカルルールとなって次回改定の際には新たな通知となる可能性が極めて高い。

 しかし、審査員側にも言い分はあって「保険者も厚労省に伺いを立てているため容易には原審通りには断れないような空気になってしまう」というのだ。それでは保険者の言いなりということではないか。本来、保険者と医療機関の中間に立ち公正に審査を行うことが審査員の業務であるはずである。通知文にないことを厚労省から巧みに回答を引き出させること自体が問題である。審査員も医師会・歯科医師会の人脈より現場に精通している若手医師、歯科医師がなるべきであろう。それがローカルルールを作らせない第一歩である。

2011年3月5日埼玉保険医新聞掲載


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