論壇

個別指導の中断とカルテのコピー事件
新たに持ち込まれた違法行為

富士見市 入交 信廣
 
(Ⅰ)事実経過
 平成二十三年六月九日、埼玉県歯科の個別指導中、厚生局の指導医療官、医療指導監視監査官が、①個別指導を中断、②被指導医からカルテ等を預かり、コピーを取る事への同意を求め、③さらに、過去のカルテを検証するため、翌日、当該医療機関を訪問、カルテを預かり、コピーを取る事の同意を求めた。④被指導医は、厚生局の要求を、強制と認識、カルテ等の預かり書に署名、翌日の訪問に同意した。
 前記につき、当協会へ相談があったため、同日、協会から働きかけ、前記②~④は撤回された。
 
(Ⅱ)個別指導成立の法的根拠
 保険医は、(a)「健康保険法(健保法)七三条」により(行政)指導を受ける義務がある。
但し「監査」を規定した(b)「同七八条」と異なり、検査を受ける義務はない。また、指導は(c)「行政手続法(行手法)三二条」に基づき、「行政指導の内容があくまでも、相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」として、(d)「指導大綱」、(e)「実施要領」、(f)「指導大綱における保険医療機関等に対する指導の取扱いについて」の運用により実施される。また、(g)「個人情報保護法」が適用されるのは、いうまでもない。
 
(Ⅲ)本事件の問題点と対策
 法治国家たる日本で、保険医は上記「法律」(a)~(c)、(g)、および法体系では、はるか格下の「通知」(d)~(f)に従い指導を受けている。当然、厚生局指導監査課は、これら法令に従った指導を行なわなければならない。
 以前より、「指導」を規定した「健保法七三条」と、「監査」のための検査を規定した「同七八条」を混同するなどの違法な指導が行われてきた。本事件では、以下のような更なる法令違反が行われだした。
①:指導の中断)数年前、東京で、歯科医師がたび重なる指導の中断後、監査となる直前、自殺する事件があった。この事件からも類推できるが、「指導の中断」は、被指導医には多大のストレスとなり、精神的拷問と言える。この事件後も、厚生局は「指導中断」を繰り返しており、指導医療官達のメンタリティーには、最近失脚の相継ぐアフリカの独裁者達の、相手の事を顧みぬ残虐性を感じる。また、「指導中断」は、上記(a)~(f)の法令等には、全く規定されておらず、指導医療官達の恣意的行為であり、被指導医を犯罪人扱いする検査(七八条)に該当し健保法違反であり、かつ、「任意の協力」を規定した「行手法三二条」違反と考えられる。
②、③:カルテの預かり、コピー、これらに対する同意の署名、翌日訪問し、カルテのコピーを取る事の同意の要求)これらは指導を規定した「健保法七三条」を逸脱し、「同七八条」の監査のための検査にあたり、違法である。「個人情報保護法」は、患者の同意なしに個別指導でカルテを供覧する事を認めていない。
この矛盾については、埼玉県社会保険事務局長(当時)が「保険医療機関の指導等にあたり、当該医療機関等が提示する前記書類については、あらかじめ(患者)本人の同意を得る事を要しない」という「通知」(法律ではない)を出し、糊塗している。しかし、カルテ等を預かる事、コピーする事は、個別指導の領域をはるかに越え、「個人情報保護法」違反といえる。また、そもそも医師の守秘義務を定めた「医師法」違反でもある。
 本事件は、厚生局が、「国家公務員法」の順法義務に反し、更なる違法行為を指導の場に持ち込み始めた事を示した。当局及び指導医療官の責任は追及されるべきである。
 今回の事件の教訓として、被指導側も、法令に無知なまま、厚生局の言いなりとなれば、知らぬ間に違法行為を犯す事が示された。今後、理不尽な「指導」が拡大せぬよう、この分野の法令に詳しい弁護士の帯同のもと、違法な指導を阻止し続ける事が肝要である。また、「指導」について、法的に整合性のある関連法令の整備が行われるべきである。

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