声明・談話
歯科診療報酬改定に対する談話
埼玉県保険医協会 歯科部
二〇一二年歯科診療報酬改定は厳しい社会情勢の中、歯科の本体は一・七〇%とごくわずかではあるが前回に引き続きプラス改定となった。改定財源の五〇〇億円のうち、八〇%が歯科の基礎的な技術に対する点数の引き上げにつぎ込まれたと言われ、根管治療や一連の歯周治療、補綴治療など、点数はわずかながら多くの項目が引き上げられた。
これらは、私たちが日本の歯科医療に甚大な悪影響を及ぼした二〇〇六年度改定以降、改善のためにすすめてきた歯科医療の重要性の啓発運動と保険で良い歯科医療の実現を求めてきた運動の反映である。
しかし、二〇〇八年改定まで十年間続いたマイナス改定により失われた診療報酬を取り戻し、二兆五〇〇〇億円程度に抑えられた歯科医療費を拡大するには至っていない。改定にあたり実施された医療経済実態調査では、損益差額は初めて一〇〇万円を割り込んだ。右肩上がりに増えた歯科医療機関数も減少している現状を鑑みれば、今回の改定は疲弊した歯科医療界の停滞を打開できるものではない。
中医協は医科・歯科連携の促進を謳い、周術期の口腔機能の管理に対する評価を新設した。臨床の実態に即したものとしてある程度評価できるが、現時点では連携が不十分であることから積極的に活用されるか疑問である。充実を掲げた在宅歯科医療は、前回の改定で導入された歯科訪問診療料の二〇分以上診療した場合に算定する要件が、患者の容体が急変し医師の診察が必要な場合等、診療を中止した場合に限り二〇分未満でも算定できる取り扱いとなり、若干緩和された。前回改定で導入されて以降、協会は積極的に二〇分要件を撤廃するための運動に取り組んできた。患者の容体にあわせて短時間で診療を終えることが望ましい場合についても、二〇分未満でも算定できるよう、時間要件の撤廃に向けて改善を求めていく。
基本的な技術に対する点数の引き上げはされたが、国会で二十五年間も評価が変わっていないと問題視された五八項目のうち、わずかな項目のみ引き上げられている。いまだ多くの項目が正当に評価されず取り残されており、今後も要求し続けていく必要がある。在宅療養支援歯科診療所に属する歯科衛生士が、歯科訪問診療に同行して診療の補助を行った場合の評価が新設されたほか、歯科外来診療環境体制加算は再診時の評価も新設された。しかし、ともにハードルの高い施設基準が設けられているため、取り組むことが困難な歯科医療機関もあり、さらなる差別化を図るものである。重い事務負担を強いる明細書発行は改善されなかった。画一的な取り扱いはやめ、必要に応じて提供するよう改めるべきである。
介護報酬改定については、歯科医師または歯科衛生士が施設の職員に口腔ケアの助言・指導した場合、また歯科衛生士が施設を訪問して口腔ケアを行った場合の評価が新設された。しかし、これらは施設に対する評価であり、実施する歯科医療機関に対しても評価されなければ普及が進まない。居宅療養管理指導費は歯科訪問診療料等と同様に同一建物居住者か否かで区分されたが、あくまで介護保険の指導・管理に対する評価であることから、同一建物居住者の人数で減算することは問題であり、従前の取り扱いに戻すべきである。
支払基金が二〇一二年二月診療分より電子レセプトを対象とした突合・縦覧点検を始めた。また、電子請求をしている医療機関は、四月診療分から摘要欄への算定日を記載することになった。縦覧点検は当月請求分と過去六カ月分のレセプトを電子的に照合して点検する。患者の状態にあわせた診療行為の必要性は考慮されず、算定回数等で機械的に審査される可能性がある。また、審査機関や保険者には膨大なレセプトデータが蓄積される。すでに第三者に情報が提供されている事例もあるため、個人情報の漏洩が危惧される。
私たちは、歯科医療の崩壊を食い止め、患者・国民が必要とする、他の西側諸国では類を見ない底辺の広い良質な歯科医療を継続して社会保障として供給でき、歯科医療機関の経営が改善できるように歯科診療報酬の大幅な引き上げを厚労省に強く求める。
あわせて、国民が安心して歯科医療を受診できるよう、患者の窓口負担の大幅な軽減を求める。
2012年3月20日