声明・談話

診療報酬改定に関する理事長談話

埼玉県保険医協会 理事長 大場 敏明
 
1. 社会保障・税一体改革の具体化へ─姿を露わにした官僚独裁「管理医療」への第一歩
 
 政権交代後2 回目の診療報酬改定は、10 年以上に渡る執拗な医療費抑制と、2011 年3 月11 日の東日本大震災の甚大な被害によって致命的に脆弱化した日本の医療崩壊を止めることが政府・民主党に期待されていた政策であった。しかし、2009 年の民主党マニフェストを今回も反故にし、国民負担と社会保障の給付抑制により財政健全化を求める「社会保障・税一体化改革」の確実な実現に向けた最初の第一歩を踏み出す決意を政府は示した。財務・厚労両大臣折衝で合意された政府公称の診療報酬改定率は、総枠+ 0.004%であり、診療報酬本体が+ 1.379%(+ 5500 億円)、薬価・材料が? 1.375%(▲ 5500 億円)の16 億円にとどまった。医科の改定率は本体+ 1.55%(+ 4700 億円)であるが、改定率の算出に含めない「後発品のある先発品の追加引き下げ(▲ 250 億円)」が行われれば、実質明らかなマイナス改定である。
  さらに、レセプト電子請求を行っている医療機関においては、前回経過措置となっていたレセプトへの各点数項目の算定日(診療日)の記録が実施される。審査において突合点検や縦覧点検も開始され、厚労省や保険者がより医療機関を管理しやすい状態へすすむことになる。
 一体改革が提示する「2025 年の医療・介護の提供体制の将来像」をもとに、「病院から地域へ」「医療から介護へ」と、患者の意図的な誘導がはかられており、いくつもの点で、長年続くであろう国家による管理で抑制され続ける医療費の姿が見て取れる。WHO に世界第一の成果を上げていると評価される日本の皆保険制度は、終焉に向かっている。安易な点数の増減論ではなく、国家と社会保障のあるべき姿に目を向けて、診療報酬を本質的に捉えた議論を行い、補正予算を組むなど、診療報酬を含めた社会保障の大幅引き上げをはかるべきである。
 
2. 再診料据え置き

再診料引下げを正当化した地域貢献加算は名を変えて再編も変わりなし
 再診料の点数は据え置かれた。前回、再診料の引下げを正当化し、地域に貢献している医療機関を評価するという方便で創設された「地域医療貢献加算」は、患者に応対すべき時間帯を「24 時間・365 日」、「準夜帯・時間外」など、厚労省の見解が不統一で、通知にも明記されない杜撰なものであった。今改定では、「時間外対応加算」に名称を変更し、「24 時間」「準夜帯」「輪番制の連携型」の3 区分に分けられたことにより、対応する時間帯の矛盾は解消された。しかし、再診料を74 点に戻すには、時間外対応加算の「1(= 24 時間365 日対応)」を算定しなければならない。24 時間対応の強制により通常の市民的生活ができなくなり、開業医は疲労による診療機能の低下が予想される。人権無視の異常な点数であることに変わりはない。そもそも、開業現場では、準夜帯はおろか午後の通常診療時間でさえ、紹介引受先を確保することが困難な状況にある。この悪循環を阻止し、地域の病床確保策を図るのが先決である。
 
3. リハビリ三つの問題点:

医学管理料新設
「維持期リハビリ」介護移行促進
成功報酬導入
 
 一つは「外来リハビリテーション診療料」の新設である。医師による包括的なリハビリテーションの指示が行われた日に算定する包括点数であり、「医師による診察を行わない日であってもリハビリを実施してよい」「リハビリを実施した日について再診料を算定しない」など、あたかも無診察でリハビリが実施できることになったと錯覚をさせる。厚労省は導入の理由を「外来でのリハビリにおいて、現在は毎回医師の診察が必要となっているが、状態が安定している場合等、毎回医師の診察を必要としない患者が含まれている」と説明する。医師が診察をしなくてもリハビリの医療行為は医師法違反にはならないことを厚労省が是認したともいえるが、健康保険法の通知が医師法を抵触する問題がある。しかも、外来リハビリテーション診療料を算定した場合、疾患別リハビリテーションを算定した日は対象患者ごとに担当スタッフとカンファレンスを行い、リハビリの効果や進捗状況等を確認してカルテの記載が求められており、診察をする以上に大変である。
 二つめは、維持期リハビリテーションに介護保険への移行準備が導入されたことである。運動器及び脳血管疾患リハビリは、要介護被保険者等への給付を次回2014 年改定で医療保険給付から外すこととされ、要介護認定を受けている患者に対する点数が引下げられた。維持期を含めたリハビリテーションは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職種による医療行為であり、それが医療から平然と排除されることが決定されている。外来リハビリテーション診療料と併せて、症状が安定したリハビリテーションは医師の手を離れて介護で対応するという流れになっている。
 三つめは、回復期リハビリテーション入院料において、日常機能の改善が施設基準となったことである。
 
4. 療養担当規則─「明細書」発行義務化の目的が大きく乖離 検証が必要

明細書の発行義務化に新たな努力義務が課せられた。公費の対象で窓口一部負担金の支払いがない患者について「患者に対する情報提供等の観点から、可能な限り明細書を発行するよう努める」と、いうものである。そもそも、「患者に対する情報提供等の観点」は、領収書の明細の性格から大きく乖離している。患者が自身のレセプト状況を知りたければ、保険者にレセプト開示請求ができ、患者の「知る権利」を声高に努力義務とするのは間違いである。明細書の発行は患者の希望ともいえるが、大多数は明細書を会計窓口などで安易に捨ててしまい、個人情報を自身で無自覚に漏洩させている状況もある。法に反した義務化をさらに進める中医協の議論は再検証が必要である。
 
5. 入院患者の他医療機関受診制限は継続。一部緩和は何の解決にもならない

前回の改定で設けられた入院患者の他医療機関受診の制限は、入院医療機関、外来医療機関双方に大きな混乱を現在も引き起こし、患者から必要な医療を奪った。今回、一部の病棟に入院している患者のみに病院側の規制が緩和されたが、保険診療の算定原則をなし崩し的に変化させ、フリーアクセスを否定していることに変わりはない。これまで、病院と診療所の突合点検はでき得なかったが、審査機関において突合点検が開始され、医療機関間での突合点検も技術的には可能な体制が整うのも時間の問題であろう。
 
6. 入院: 中小病院への締め付け在宅:「看取り」と「主治医化」への連携機能体制の強化

13:1、15:1 の一般病棟に90 日を超えて長期に入院する患者の取扱いを、療養病床と同様の評価体系に移行するか、平均在院日数の計算対象とするかの二者択一を迫る改定が行われた。中小病院を施設基準により経営状態を悪化させる点数配分が見え隠れしている。2025 年の団塊の世代が後期高齢者になった際、病床を増やさずに医療費のピークをやり過ごすことを目標に、強引に病院から在宅へ、医療から介護への誘導が図られている。病院から在宅へ誘導した後に逆行が起こらないよう、病院の系列化・淘汰も図られている。
 在宅医療では、看取りまで含めた地域での在宅医療推進を目的に、新たに「機能を強化した」在宅療養支援診療所・支援病院(以下、「支援診」)を新設し、一定の条件を満たせば、複数医療機関の連携下での点数設定を行った。「機能強化型」の在宅医療は、極めて高い点数での算定が可能だが、一人医師支援診や、支援診以外で在宅医療に取り組む診療所は、すべて点数が据え置かれ、引き続き厳しい状況に置かれる。また、在宅ターミナルケア加算を再編し、積極的に在宅での看取りを誘導している。さらに、問題なのは、こうした連携は同時に「主治医・副主治医」制度を地域医療に厳重に規定するものであり、患者のフリーアクセスの阻害など、将来的な問題に発展しかねない。
 政府は地域包括ケアの整備とケアマネの淘汰により、新たな「自宅」としての施設に高齢者や障害者を詰め込み、限定された「介護」のみを提供し医療を抑制しようとするのが最終的な目的で、医師に期待されている役割は、在宅医療開始時の指導、急変時の対応・指示、看取りである。24 時間対応の定期巡回・随時対応サービスで訪問看護や介護職員が行う痰吸引の新設により、医師の役割は大きく変わろうとしてる。また、特定看護師の導入に伴い、様々な「医療」からの締め出しも想定され、「医師不足」が逆の意味で解決が図られる。
 
7. 点数評価に関わらない施設基準要件追加は見逃せない─改善運動にご協力を
 
  今回の改定で、22 の医学管理料等の点数の施設基準に「屋内禁煙」が導入された。従前からある点数項目に、点数評価に直接関わらない要件を唐突に課すという手法は見逃せない。安直に給付制限ができ得るという点で大変危険である。今後、様々な「算定要件」や「施設基準」が強引に導入される可能性が高い。
 さらには、点数改定のたびに通知が変更され、周知期間は施行日まで1 カ月もない状況は変わらず、現段階でも解釈に不明な点が多々残されている。4 月以降も追加通知や疑義解釈が乱発され、現場がその都度混乱するという事態はなくならない。現状の事態は、行政の不作為によって引きおこされている。これを防ぐには、十分な制度設計と周知に時間をかけること、また、そもそも法的根拠のない課長通知が保険診療を複雑な構造にし、日本の医療を混沌とさせている仕組みを変えることである。
 今改定における不合理な点数を指摘し、改善を求める運動を大きく展開していきたい。多くの会員にはぜひ協会活動にご協力をお願いしたい。
 
以上

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