論壇
診療報酬改定の問題点について
富士見市 入交 信廣
本年も四月より、診療報酬改定が実施された。増大する財政赤字に対し高齢化による医療費増化抑制のため、診療側には満足のいく改定にはなりにくい状況が二〇〇〇年より続いている。特に問題となる事実を述べて見る。
A)診療報酬体系の複雑化
改定ごとに変わる担当者(厚労省医療課長など)が、過去からの申し送りもなく決定しているのか、かつての香港九龍城のごとき複雑怪奇な診療報酬体系となっている。
例えば、前改定で新設された「地域医療貢献加算」一区分が「時間外対応加算」と名称を変え三区分に分解、さらに複雑化した。本来、点数告示のみで理解されるべきものが、通知でも理解できず、後から出される疑義解釈なしでは、運用できない代物である。厚労省は、今改定でも診療報酬の平易化・簡素化を行うとし、中医協で検討されていたが、逆行している。現場の医療者などが、簡素化を求めて声を大にすべきである。
B)診療報酬改定項目の不合理
二〇〇八年改定で出された「外来管理加算」の算定要件は、①問診し、患者の訴えの総括 、②身体診察所見に基づく医学的判断を説明し、③これまでの治療経過を踏まえた療養上の注意、説明、指導を行う、④患者の潜在的疑問、不安を汲み取る取り組み。これらを五分間以上かけて診察を行い、カルテに記載する。大学教授であっても、できそこないのSOAP様式のカルテ記載、診察時間の記載を、医局員に強制する事はあり得ない。この要件は、患者の納得、ご機嫌を取りなさいとなっており、正しく診察することとはなっていない。また、一時間に一二人以上診察してはいけないということであり、まさに医療崩壊を引き起こす規定である。この要件は、一介の医療課長(医師免許あり)が出したものである。
カルテの記載、診療方法などは、医療についての学識経験者が行なうという医学教育の基本原則を犯すのみならず、医療現場での先輩、名医方々に対し無礼極まりない。医学界、医療界からの抗議がなかったのが不思議である。
C)不可解な官僚機構
前記のような不合理な改定を行った医療課長達は、揃って改定後二カ月前後で、環境庁に出向後、厚労省の別の部署の幹部として昇進帰省するようである。公務員たる者は、原点に立ち返り、公僕としての自覚を持ち、自己、組織の利権のため、権力を行使すべきではない。医療に携わる者としては、常に、筋の通らぬ規定の乱発を監視、抗議すべきであろう。
D)診療報酬改定の法的位置づけ
法体系を、ピラミッドに例えると、憲法が頂点にあり、以下、法律、政令、省令、告示、通達、通知の序列がある。診療報酬は、省令(療担規則)、告示(点数)、通知(運用の課長通知)より成り立つ。個別指導の場では、多くの場合、この法体系の底辺の課長通知の遵守につき、重箱の隅を突つくような「指導」が行われている。違反すれば、不当請求として自主返還、故意に規定違反とみなされれば、監査の対象となり得る。
E)今後の診療報酬改定に対する対応
これまで、改定のつど医療従事者は、厚労省が示した改定内容を是とし、封建時代の延長の如く「お上」のいいなりになっていたように思える。しかし、中医協審議を大きく外れた通知のみならず、追加・訂正通知、事務連絡などが、医療課長の一存で出されている現状がある。
不合理な規定に対しては、二〇〇七年の「リハビリテーションの日数上限」、二〇〇八年の「後期高齢者診療料」の実施を、世論が延期・廃止させたことがある。今後も直ちに、抗議、要請、国会質問、世論への訴えなどで、二年後の改定を待たずに取り消し、訂正に持ち込めるような発想を持つ事が必要と思われる。