論壇

小児予防接種の格差是正にむけて

秩父市 新井 恵子
 
 今年五月に厚労省は「予防接種制度の見直しについて(第二次提言)」を発表した。これにより、長いワクチンラグが解消されて、日本でも一通りのワクチンが接種できるようになった。ところが、診療していて痛感することは、「予防接種には格差」があることである。この格差と、それを生む問題点を挙げてみたい。
1.情報の不足(乳児訪問の際、市町村の保健師から、定期接種しか説明されていない)
 生後二カ月からの接種が推奨されるワクチンは定期接種でないため、保健師から勧めにくいのである。地域で予防接種の勉強会の開催が望まれる。勉強会を企画する方は医師だけでなく、スタッフや保健師が一緒に参加できる形態が良いと思う。ある医療機関では院内の勉強会に予防接種担当の保健師を呼んだことで、生後二カ月からの予防接種の紹介が増えたという。
2.予防接種を理解して接種する医療機関の不足
 当院では、母子手帳を持って相談に来る母親を前に、市町村のワクチン接種スケジール表に照らしながら、個別にワクチン接種の予定表を作成している。現状では、予防接種の内容、打ち方などを理解して接種できる医療機関は少ないと感じている。実地医科の会、プライマリケア連合学会などでワクチン接種の勉強会が開催されている。予防接種の転換期にこうした勉強会も必要である。
3.同時接種への無理解(同時接種でなければこなせないのに市町村が一種類の予防接種を、日を決めて施行し続けている)
 このことで、予防接種の地域格差が起こっている。市町村には「一部でも個別化にするか、もしくは近隣の市町村との乗り入れ」の検討をしていただきたい。
4.居住市町村でなければ接種できないため、里帰り出産には対応できていない
 「ワクチンデビューは生後二カ月の誕生日」と早くなっているため、母子が居住市町村を離れている場合には対象外となる。里帰り出産者への「特別相互乗り入れ」の考慮が必要である。
5.マスコミ報道の問題
 不活化ポリオワクチン接種との因果関係がないのに「不活化ポリオワクチン接種を受けた乳幼児が十九日後に死亡。初の死亡例」という誤解を生むような報道をしないで欲しい。正しい情報が得られるような報道をしないと情報格差の原因となる。
6.すべての予防接種が無料になっていないことで経済格差が生じる
 現段階で小児に勧められるワクチンを全部接種すると、自己負担額は六万円以上となる。診察室で金額を聞いて接種をあきらめるという現状はいつなくなるのだろうか?「定期接種」「任意接種」という分け方があるのは日本だけである。また、任意接種は市町村によって、助成対象期間や指定医療機関を設けるなど、その方法が異なっている。日本はまだまだワクチン接種については後進国であり、早期のワクチン無料化が求められる。
7.補償制度やワクチン安全性は国の責任で検討を
 先日「日本脳炎ワクチン接種後死亡」という報道があったが、厚労省の専門委員会は、ワクチン接種と死亡の因果関係がないため、日本脳炎ワクチンは続行するとした。予防接種の安全性、副作用による補償の問題は、個人や市町村で対応しきれるものではない。国が判断、対応しなければならない。国はそれだけでなく、助成費用や実施方法を自治体任せ、打ち方と個々のスケジュール管理を医療機関任せにしていることも、解決すべきである。
 予防接種格差がなくなることで、小児医療の崩壊が少しでも防げることを希望する。「この町から髄膜炎の子供が出ることは防ごうね。」と近隣の保健師さんと話し合った。
(最近の小児の予防接種スケジュールについては「VPDを知って子供を守ろう」http://www.know-vpd.jp/ をご参照されたい。)

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