論壇

感染症としての胃がん 胃がん予防 新しい時代へ一歩 ─早期発見から予防へ

久喜市 青木 博美
 ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、「H・ピロリ菌」)が胃、十二指腸疾患の原因であることが明らかにされ、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が感染症にあげられるようになったことは、私のような古い教育を受けた医師にとっては驚きであった。
 そして、また、消化器疾患に止まらず特発性血小板減少性紫斑病など思いもかけない疾患にまで影響が広がっていったのも驚きである。
 H・ピロリ菌除菌療法の保険適応は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、そして、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんの内視鏡治療後胃が追加されていた。
 今年よりH・ピロリ感染胃炎へ適応が拡大された。
 胃がんのほとんどが慢性胃炎を背景に発生しており、H・ピロリ菌と慢性胃炎の因果関係が明らかになり、胃がんも胃十二指腸潰瘍と同じく感染症の流れの中で位置づけられるようになってきた。

 胃がんの現状、胃がん検診の現状
 胃がんの死亡者数は、ここ数十年にわたって五万人前後で大きくは変化してない。(年齢別調整罹患率、死亡率でみると緩やかに低下しているが。)
 胃がん検診についてみると、全国では、受診率一二%、要精検率一一%、がん発見率〇・一五%、要精検的中度一・三%。埼玉でも、受診率七・七%、要精検率一三%、がん発見率〇・一五%、要精検的中度一・一%。(二〇〇四年)
 進行がんを含めて、一人の胃がんを発見するのに、一〇〇〇人の検査が必要になることになる。早期胃がんに限ればさらに多くの数の検査が必要になる。
 私も胃がん検診読影会に参加していたが、陥凹型の早期胃がんを発見するのは、とても困難と感じていた。
 胃がん検診ガイドラインでは、胃X線検査は、推奨グレードB(死亡率減少効果を示す相応な証拠があることから推奨する)とされている。
 しかし、死亡率減少効果があるとしても、その割合は小さいので、さほど効果は期待できないのではないかと思う。
 一方、胃内視鏡検査、ペプシノーゲン法、H・ピロリ抗体法などは、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分のため勧められない、としている。

 胃X線検査中心の胃がん対策を転換すべき時期に
 胃がんの発生が、H・ピロリ菌感染による慢性胃炎にあり、喫煙、食塩および高塩分食品摂取は慢性胃炎がある場合に胃がんのリスクになることが明らかになってきた。
 胃がん対策は、一次予防としての、H・ピロリ菌感染対策:環境対策、H・ピロリ菌感染に対する除菌療法。二次予防として、H・ピロリ菌感染、慢性胃炎がある人に対する胃の検査。これらを検討すべき時期にきているのではないだろうか。
 これらが有効であるという根拠が確立されている訳ではないが、感染症に伴って発生してくるがんに対する対策として、肝がん対策、子宮頸がん対策がある。それぞれ原因ウイルスに対する対策が「がん対策」としてとられ、有効とされている。
 胃がんについても、同様の対策を検討し効果を検証していくべきであろう。

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