論壇

秘密保護法の秘密と虚言

さいたま市 山崎 利彦
 第一八五回臨時国会に提出された特定秘密保護法案に対し、多数の団体から、報道の自由や民主主義の根本を脅かす悪法と反対意見が出されている。
 では特定秘密とは何か。本法案では、行政機関の長により指定された情報で、有効期間(上限五年で更新可)を規定し、①防衛、②外交、③特定有害活動の防止、④テロ活動防止の四つに関わる事項とされる。そして、この「処罰の対象」となる情報の取得行為として、他の犯罪行為以外に、特定秘密の保有者の管理を侵害する行為と、取得行為の未遂、共謀、教唆、煽動が含まれる。
 法案作成には、米国政府との情報共有のために、国家安全保障会議(NSC)と同様のルールで国家情報を管理したいという、情報におけるTPP加盟のような背景があるが、ここでは割愛する。しかし、米国でも今法案ほど過激、かつ曖昧な情報保護システムは存在しない。
 国家の秘匿に関する原則としては、「国家秘密と表現の自由との関係を調整するヨハネスブルグ原則(九五年)」があり、これを継承、発展させた「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則・一三年六月作成)」がある。これは、米国の「開かれた社会財団(OSC)」により七〇カ国五〇〇人以上の専門家が参加し、一四回の会議を経て作成された。興味深いポイントとして、

 ○政府の情報にアクセスする権利は国民全てが有し、制限の正当性を証明するのは政府の責務。
 ○人権、人道に関する国際法違反の情報は、過去および現在の政府関係者その他の違反行為であっても決して制限しない。公衆は、公衆に対する監視システム及びその認可手続きについて知る権利がある。
 ○安全保障・諜報機関を含め、いかなる政府機関も情報公開から免除されず、公衆は、全ての安全保障部門・機関の存在、法律や規則、予算などの情報も知る権利を有する。
 ○秘密の期間は限定され、最長期間を法律で定め、指定解除を請求する明確な手続きが必要。その際、公益に資する情報を優先的に解除する手続きも定める。
 ○公共部門の内部告発者は、情報公開の公益が秘密保持を上回る場合には、不利益措置を受けるべきではない。内部告発者は、問題を伝える努力をするべきである。
 ○報道その他非公務員は、秘密情報の受取り、所持、公開により、または秘密の探索、アクセス、共謀その他の罪で訴追されるべきではなく、秘密の情報源やその他の非公開情報を明かすことを強制されるべきではない。
 ○安全保障部門には独立した監視機関を設け、必要な全ての情報にアクセスできるようにするべき。
 ○情報を漏えいした者に対する刑事訴追は、「実在して確認可能な重大損害を引き起こすリスク」をもたらすときのみ検討されるべき。

 以上のツワネ原則を見ると、本法案が国際原則に大幅に反している事が判る。さらに、こうした国家の暴走を監視すべきメディアも無自覚で、取材の担保にしか論点を当てていない。閉鎖的な情報カルテルである「記者クラブ」の恩恵下にある日本のメディアには、国家の情報秘匿に対する危機感はない。
 本質的に、国家の国民に対する秘匿は許されず、それは「国民の知る権利」ではなく、「説明して同意を得る国家の義務」と考えるべきである。近年インフォームド・コンセントが当然となった日本において、国家と国民の信頼関係が医師・歯科医師と患者以上の乖離が要求されるべき論拠がどの程度あろうか。百歩譲って「特定秘密」が必要だとして、①いつ②誰の責任で③何を④どの程度秘密にするのか、それが適切であるかを説明する義務が政府に課せられるべきである。即ち、どの程度の特定秘密を誰の責任で指定したのか、常に公開するのである。更新の際は、②誰の責任で⑤いつまで延長するのか、これも明らかでなければならない。そうしなければ、全ての情報は永遠に秘匿可能で、それが秘密である事すら誰にも判らない。繰り返しになるが、有権者に対する秘匿の正当性を説明する責務は政府にある。

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