声明・談話

厚労省の事務連絡は何を守ろうとしているのか
現状の個別指導と法律との矛盾への対応に向けて
2014年1月22日     
埼玉県保険医協会       
審査・指導対策部部長 小橋一成
1.厚労省の事務連絡は何を求めているのか
 事務連絡の内容は、「被指導医がカルテの閲覧を拒否したまま指導を終えることは不適切」と、個別指導はカルテを閲覧しないとできないという前提のもと、閲覧を拒否した場合の行政の対応を示したものである。
 まずは「事務連絡」がどういうものかを知っておく必要がある。そもそも、「事務連絡」とは行政の内部基準である「通知」の下に位置づけられたものであり法令ではない。国民や我々保険医を拘束することはできない性質の行政文書である。
 個別指導大綱でもカルテの閲覧については、実は指示・徹底はしていない。事務連絡である個別指導実施要領で初めて、「カルテの提示」が出てくる。今回の事務連絡を見てみると、カルテの提示を規定した法的根拠がないことを厚労省が認識し、被指導医に強制することができないことも認識した上で、それでもなお、カルテを見ないと個別指導ができないとして、カルテの提示を求めているのである。
○個人情報保護法の法解釈をミスリード
 厚生局によるカルテの閲覧は、被指導医にとっては個人情報の第三者への提供である。事務連絡では、個人情報保護法第23 条「法令の定める事務の遂行に協力する場合」に該当し、法に抵触しないとしている。しかし、「法令の定める」という点からみると、個別指導は健康保険法の第73 条には、指導を受ける義務はあるがカルテ閲覧の規定はない。法律の条文でカルテ閲覧の規定があるのは、第78 条の監査についてのみである。つまり、個別指導でカルテ閲覧を示している事務連絡の実施要領は法令ではないため、個人情報保護法第23 条は適用できないと思われる。
 個別指導は行政指導であり、事務連絡にあるカルテ閲覧は、あくまでも行政指導への協力であり、するしないは任意ということである。
○カルテ閲覧拒否時の個別指導の中断は指示していない
 事務連絡では、厚生局に対して、個別指導においてカルテの閲覧拒否があった場合の対応として、関連法令等の説明の指示、中断することも想定しているが、中断には根拠がないため徹底はせず曖昧にして、担当者の裁量に任せている。

2.現状の個別指導は法律と乖離している
 個別指導を受けることが、被指導医にとって大きな精神的、肉体的な負担となっている。保険医(国民)と、厚生局(国家)が直接に対峙する構造になっており先進国ではあり得ないことである。この国は、国民に対し人権意識が少々希薄である。その状況を認識した上で、法律に基づいた運営がなされているかどうか、これが非常に大切な問題である。現状の個別指導の様々な内容を、「法律に基づいているかどうか」という視点で見ると、今回の事務連絡から、個別指導と法律で定められている内容に大きな乖離があることが理解いただけるだろう。私たち保険医が、診療の現状を踏まえつつ、法令の整合性を検証する時期にある。
 個別指導を医療費抑制の手段に用いるという厚労省の「方針」は変わっていない。カルテ閲覧の強制が、法令に反することを自らの事務連絡で認めながらも、カルテを見るという「慣習」となった指導方法に固執している。保険医の私たちはどのようにしたら良いか。現時点では、法的根拠が無いと言っても、保険診療や個別指導に関する法令に精通しないまま、カルテ閲覧を拒否すると、個別指導を拒否したと認定される危険性がある。強い意志を持ち拒否する場合には、弁護士帯同の上で、行政と懇談することが望ましい。それ以外は、あくまで「必要に応じて協力する場合にカルテを見せる」ということを認識したうえで対応することが必要である。
 一人の医師としてカルテ記載の私見を述べると、個別指導という狭い範囲のためでなく、医師という患者に責任を持つ立場から、カルテの記載はより良い医療のために必要である。
以上

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