論壇
医療事故調とWHOドラフトガイドライン
さいたま市 山崎 利彦
「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」と云う名前を聞いて、ピンとくる方も、同時にその名前から何とも不安感が煽られる方もおられよう。これは本年二月十二日、いわゆる「医療・介護一括法案」として閣議決定され、六月十八日に成立した改正医療法を受けた、「医療事故調査制度」のガイドライン作りのための厚生労働科学研究費補助金による研究班である。
代表研究者が全日本病院協会会長西澤寛俊氏であることから「西澤班」とも略されるが、西澤氏以外の二八人のメンバーはすべて「研究協力者」であり、会議で意見は述べられるが結果を取りまとめる権限がない。また、毎回の資料は膨大で、頻回な会議の殆どが資料の説明に費やされ、実質的な議論は殆ど行われていないという。
以前から厚労省は、診療行為関連死亡に関して「捜査」と「処分」の権限を得ようと虎視眈々と狙っていた経緯がある。WHOは「患者安全のための世界同盟」に対しドラフトガイドラインとして二〇〇四年に提言を行い、世界各地で引用・準拠されている。
このガイドラインの最大の特徴は「非懲罰性と秘匿性の担保」であり、エラーの報告者が処罰されることはあってはならない、とされている。厚労省はそうした発想を根本から否定してきた経緯があり、各種検討会でも「存在しない」と答弁してきた。
しかし、ドラフトガイドラインの中には、「各国の報告システム」と題した項があり、その中には日本の制度も報告されている。
要約すると、「日本では、病院は厚労省により院内でインシデント報告システムを持つように義務付けられ、医療機能評価機構がインシデントを収集し、二〇〇三年には国レベルの報告システムが導入されている。この報告システムは教育病院では義務だが他の病院では任意である。報告システムは三段階に分けられ、報告するのは病院や医療機関である。分析されたデータは一般に公開され、特に重要と思われる事例は個別に評価される」等と極めて詳細だ。これだけの情報を、WHOが厚労省に「極秘に入手した」とはとても考えられない。
そもそも改正医療法における、「医療事故調査」は、再発防止を目的としており、事故が発生した医療機関の「院内調査」が前提である。そして、院内調査の報告書を民間の第三者機関が収集・分析を行うことにより、再発防止のための仕組み等を医療法に位置付け、医療の安全を確保することが目的、とされている。
ここでその調査が、診療行為関連死亡のエラーを「医療過誤」と位置付けて処分を行う材料とされる危険があればどうなるか。医療機関も、医療従事者も、自分のエラーを隠ぺいして報告しないか、虚偽の報告をするケースが多発する。西澤班を始め、幾つかの議論の場でこうした問題点を指摘する識者が多数いたが、厚労省の姿勢は終始一貫していた。
ところが、十月十六日、厚労省は突如、「医療事故調査制度について」と題するQ&Aをホームページに掲載した。このQ&Aでは、それまで存在さえ否定していたWHOドラフトガイドラインを引用して解説がなされ、「非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています」と高らかに宣言されている。
これを多くの医療者らからの意見を真摯に受け止めた結果と評価すべきか、従来通りの「姑息な詐欺行為」と疑うべきか。実際、十一月十四日に開催された、「第一回医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、厚労省案は既に複数の案が用意され、幾らでも変更される可能性が残されている、との情報もある。
今後の動向には注意を払うべきであろう。
代表研究者が全日本病院協会会長西澤寛俊氏であることから「西澤班」とも略されるが、西澤氏以外の二八人のメンバーはすべて「研究協力者」であり、会議で意見は述べられるが結果を取りまとめる権限がない。また、毎回の資料は膨大で、頻回な会議の殆どが資料の説明に費やされ、実質的な議論は殆ど行われていないという。
以前から厚労省は、診療行為関連死亡に関して「捜査」と「処分」の権限を得ようと虎視眈々と狙っていた経緯がある。WHOは「患者安全のための世界同盟」に対しドラフトガイドラインとして二〇〇四年に提言を行い、世界各地で引用・準拠されている。
このガイドラインの最大の特徴は「非懲罰性と秘匿性の担保」であり、エラーの報告者が処罰されることはあってはならない、とされている。厚労省はそうした発想を根本から否定してきた経緯があり、各種検討会でも「存在しない」と答弁してきた。
しかし、ドラフトガイドラインの中には、「各国の報告システム」と題した項があり、その中には日本の制度も報告されている。
要約すると、「日本では、病院は厚労省により院内でインシデント報告システムを持つように義務付けられ、医療機能評価機構がインシデントを収集し、二〇〇三年には国レベルの報告システムが導入されている。この報告システムは教育病院では義務だが他の病院では任意である。報告システムは三段階に分けられ、報告するのは病院や医療機関である。分析されたデータは一般に公開され、特に重要と思われる事例は個別に評価される」等と極めて詳細だ。これだけの情報を、WHOが厚労省に「極秘に入手した」とはとても考えられない。
そもそも改正医療法における、「医療事故調査」は、再発防止を目的としており、事故が発生した医療機関の「院内調査」が前提である。そして、院内調査の報告書を民間の第三者機関が収集・分析を行うことにより、再発防止のための仕組み等を医療法に位置付け、医療の安全を確保することが目的、とされている。
ここでその調査が、診療行為関連死亡のエラーを「医療過誤」と位置付けて処分を行う材料とされる危険があればどうなるか。医療機関も、医療従事者も、自分のエラーを隠ぺいして報告しないか、虚偽の報告をするケースが多発する。西澤班を始め、幾つかの議論の場でこうした問題点を指摘する識者が多数いたが、厚労省の姿勢は終始一貫していた。
ところが、十月十六日、厚労省は突如、「医療事故調査制度について」と題するQ&Aをホームページに掲載した。このQ&Aでは、それまで存在さえ否定していたWHOドラフトガイドラインを引用して解説がなされ、「非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています」と高らかに宣言されている。
これを多くの医療者らからの意見を真摯に受け止めた結果と評価すべきか、従来通りの「姑息な詐欺行為」と疑うべきか。実際、十一月十四日に開催された、「第一回医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、厚労省案は既に複数の案が用意され、幾らでも変更される可能性が残されている、との情報もある。
今後の動向には注意を払うべきであろう。