声明・談話

介護報酬改定に関する理事長談話

埼玉県保険医協会 理事長 大場 敏明
 政府は今改定で、2025年の「地域包括ケアシステムの構築実現」に向け、介護保険の方針を大転換する舵を切った。特に要介護者へのリハビリテーションは、これまで医療保険から介護保険に移行させてきたところであるが、基本方針に「心身機能」、「活動」、「参加」などの生活機能の維持・向上を図るものでなければならないことが追加され、訪問リハビリから通所リハビリへ、さらには通所介護へ移行させようとしている。そして、実績に伴う加算が新設され、事業所の峻別も図ろうとしている。
 さらに、マイナス改定の内容は介護崩壊を一層すすめる可能性があり、事業者は岐路に立たされたといえる。介護保険の崩壊を止めるには、公費負担を拡大し、介護サービスの充実を行い、必要な介護を国が責任を持って給付することが必要である。協会は、公的介護の給付拡大を求めるとともに、地域医療・介護を、医療・介護従事者、住民すべてにとって良いものとするための運動をすすめて行く。ご協力をお願いしたい。

1.告示・通知の発出から実施まで、十分な周知期間を設けること
 今改定の告示は 3月19日と23日に出されたが、通知は3月27日になっても出されていない。しかし、施行日は4月1日で、周知期間がないまま実施される。2014年末の総選挙によって改定スケジュールに影響が出ることを認識していたにもかかわらず、厚労省の対応は現場軽視も甚だしい。
 告示・通知の周知期間は最低でも1カ月は確保し、事業者が施設基準、人員配置などの検討や変更、介護職員の処遇改善への対応を検討する時間が必要である。周知期間を確保できない場合は、実施そのものを遅らせるべきである。

2.介護報酬は引き上げを
 国は、介護報酬改定率をマイナス2.27%と大幅に引き下げたが、介護職員の処遇改善(+1.65%)により介護職員の賃金は引き上げたと説明している。しかし、処遇改善や中重度者への介護サービスの充実に対応できない場合、最大で4.48%のマイナスとなる。介護保険の事業所は介護職員だけでなく、看護師、理学療法士、管理栄養士、栄養士、ケアマネジャー、事務職員ら多職種により成り立っている。総枠でのマイナス改定は、人員配置、施設の整備等を考えると、介護職員の給与引き上げすら困難にする。
 また、その他の項目においても、所定単位数の引き下げや加算の見直しによる引き下げ、単位数が引き上げられていても、所定単位に包括される範囲の見直しで実質引き下げとなっている。このままでは、介護従事者の士気は下がるばかりである。介護従事者全体の処遇改善のため、介護の現場で働く人材を増やすためにも、介護報酬は引き上げるべきである。
 
3.同一建物居住者概念の廃止を
 訪問看護、訪問リハビリテーション(以下「訪問リハ」)における「同一建物居住者」は、事業所と同一の建物に居住する利用者(30人以上)から、①「事業所と同一敷地内または隣接する敷地内における養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サー
ビス付き高齢者住宅に居住する利用者」、②「①以外の範囲に所在する建物に居住する利用者が一月あたり20人以上」へと拡大された。これにより、「同一建物居住者」の概念が居宅療養管理指導費と、訪問看護、訪問リハでさらに大きく異なり複雑になった。
 訪問看護、訪問リハは、訪問看護の一部を除き患者が「要介護認定」を受けた時点で、医療保険ではなく介護保険の対象となる。さらに「同一建物居住者」の概念は、介護保険と医療保険とで異なっており、医療と介護の両方を担う医療機関では、混乱が起こることは必至である。介護の内容は、居住地や居住人数によるのではなく、利用者の状態によって変わるものである。介護報酬削減を目的とした「同一建物居住者」の概念そのものを廃止すべきである。併せて診療報酬での「同一建物居住者」の概念も廃止すべきである。

4.介護療養サービス費を引き上げ、介護療養病床の廃止を撤回すべき
 今改定で医療ニーズの高い寝たきり患者に、介護療養病床で行われている処置等が評価され、介護療養病床に療養機能強化型の報酬が新設された。しかし、単位数は療養機能強化型(A)のユニット型個室で1?6単位引き上げられたが、従来型個室・多床室、療養機能強化型(A)以外の単位数は引き下げられ、昨年の消費税増税補填に位置付けられた引き上げ分を超えるマイナスとなった。
 国は、施設サービスを切り捨て、居宅で対応する地域包括ケアシステムの構築をすすめようとしている。しかし、在宅療養を受けられない場合には、専門的な処置等を実施できる介護療養型医療施設が必要である。現状を勘案すれば、介護療養型医療施設サービス費は引き上げ、介護療養型医療施設の2018年3月末での廃止は撤回すべきである。

5.介護保険法改悪、介護予防の市町村総合事業化は見切り発車で問題山積、国の責任で必要な介護を
 4月には、介護保険法の改定が実施され、①要支援者の介護予防訪問介護、介護予防通所介護の市町村総合事業化、②特養入所の要介護3以上への限定が行われる。介護予防の市町村総合事業化は、昨年9月に行われた埼玉県社会保障推進協議会の調査に、「対応準備ができない」と回答した市町村がほとんどであり、受け入れ準備が整わないままの見切り発車である。さらに第2弾として、8月に65歳以上の上位所得者に対して窓口負担2割への引き上げが行われる。
 国は、医療から介護へ給付を移すだけでなく、公的な介護そのものを縮小させて、自己責任を強化するとともに、介護保険を営利企業の儲けの対象にしようとしている。しかし、営利優先の企業は、経営悪化を理由に撤退する可能性もあり、介護難民が増える恐れがある。公費負担を拡大し、介護サービスの充実を行い、必要な介護を国が責任を持って給付することが必要である。

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