論壇

検診車によるがん検診の法令順守と有効性の検証を

北本市 青山 邦夫
 がん検診には、自治体から委託された医療機関が行う「個別検診」と検診車による「集団検診」の二つがある。小生の地元地域における経験を紹介しながら、関連法規や検診施行における根拠や責任について考えてみたい。
 北本市では、二〇〇五年度より胃がん検診は、個別から検診予算削減の号令のもと、低コストである業者による検診車の集団検診に移行した。集団検診は、医師が立ち会わず医師の指示がない状態で放射線技師が胃や肺や乳腺のX線撮影をしており、診療放射線技師法や医師法に違反するのではないか、と以前より考えていた。
 二〇一二年二月、「検診車でのがん検診は違法状態ではないか」と医師会に尋ねたところ、顧問弁護士から合法でも違法でもなくグレーであると回答がされたとのこと。埒があかないので、北本市のがん検診担当者に尋ねたがなしのつぶてだったため、同年夏、北本市の健康づくり課課長と面談し、検診車において医師の直接の指示がないまま放射線技師がX線撮影をしている状況は、診療放射線技師法や医師法に違反しているため改善するよう要請した。
 北本市は、国や県等に問い合わせ、現状が違法状態であるとの認識を得たため、委託している業者と、すべてのがん検診時に医師を立ち会わせるとの契約を締結し、二〇一二年度途中から医師立ち会いのもとで、集団がん検診が実施された。
 二〇一三年二月下関市では、市民から「肺がん検診において医師が同行しないのは医師法違反ではないか」、との問い合わせを受け、厚労省に問い合わせたところ「医師が立ち会わないのは診療放射線技師法に違反する」との回答がされた。同年六月より、医師の立ち会いのもとでがん検診を実施したとの報道がされている。
 この問題を契機に、臨床放射線技師学会が調査したところ、約半数以上の医療機関や業者が医師の立ち会いなしで違法な検診車での検診を行っていた実態が明かになった。
 二〇一二年に小生が調査した限りでは、少なくない県内の市町村で医師の立ち会いなくがん検診を実施していることがわかった。
 二〇一三年三月、検診車による検診に関係する四団体は、厚労省に医師の立ち会いなしでX線撮影が可能となるよう診療放射線技師法第二六条の改正を申し入れた。その結果、二〇一四年六月に二六条は改正され、胸部X線撮影のみ、医師の立ち会いが不要となった。
 北本市では二〇一四年度も、すべての集団がん検診で医師の立ち会いが行われている。近隣の鴻巣市や伊奈町では、集団の胃がん検診に医師が立ち会っている。桶川市は未だ検討中とのことである。
 乳がん検診は、医師の触診が同じ会場でなされているので、マンモグラフィーの撮影に立ち会っている状態であると解釈して合法との意見もある。小生は、その医師が直接の指示者でないので、違法と考えている。
 ともかく、がん検診にまつわる違法状態は改善ししつある。しかし、これまでの違法状態の放置や無視が横行してきた責任はどこにあるのであろう。厚労省や自治体や検診車の事業者の不作為の作為であると考える。法令が順守される検診体制を求めるが、そもそも検診に関する現行法令を改めて検証する時期にあるのではないか。
 他方で、近年、胃のX線によるがん検診は信頼性(精度等)や受診率の低下、そしてX線被ばくの問題で議論が沸騰している。乳がん検診でマンモグラフィーを毎年撮影することによるX線被ばくの問題も持ち上がっている。特に家族性乳がん、卵巣がんの原因といわれるBRCA1 (breast cancersusceptibility gene 1)遺伝子の変異がある女性に対するマンモグラフィーは適切なのだろうか。
 小生は、両検診ともマンパワーの問題はあるものの、診断方法の転換時期にきていると考える一人である。そもそも、これまでがん検診が、がん死亡率をどれ程減少させてきたのかについての検証もされる時期にあるだろう。

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