論壇

新オレンジプランは、認知症患者の受け皿の問題に帰する

富士見市  里村 淳
 わが国では高齢化が進むに従い、認知症の人が増加しつつある。厚労省によれば、二〇一二年の六五歳以上の高齢者の認知症有病者数は約四六二万人であるが、団塊の世代がすべて後期高齢者となる、いわゆる「二〇二五年」には七三〇万人に達するといわれている。これは高齢者の五人に一人が認知症になることを意味している。
 政府は、二〇一二年九月に「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」を策定した。しかし、昨年十一月に開かれた国際会議「認知症サミット日本後継東京会議」で、安倍首相が「初めての国家戦略として認知症施策を作る」と言って、急遽、本年一月に「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を発表した。
 新プランはその前身となる旧プランと基本的にはあまり変わらないが、「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」の中で、精神科病院の関与が大きくなったことが注目されている。
 認知症のケアは、入院による「医療モデル」から、介護サービスなどによって生活の質を優先する「生活モデル」への転換が国際的な流れである。にもかかわらず、新プランでは行動・心理症状(BPSD、いわゆる辺縁症状)への対応には精神科病院の役割が重要視される内容となっている。
 入院してもよくなればまた地域にもどる、「循環型の仕組み」の構築が条件とされているが、これによって、わが国の精神科病院の長期入院、社会的入院の問題が蒸し返されるようになった。
 つまり、新プランにおける精神科病院のあり方に疑問を呈する論調が目立つようになったのである。老年医学関連の学会でも、シンポジウムや特別講演で新プランがテーマとして取り上げられているが、結論はこれからである。
 そもそも、わが国の精神科病床の多さと在院日数の長さは世界的に定評があり、世界保健機構(WHO)は既に精神障害者の脱病院化を勧告してきた。そのためか、在院日数は短縮傾向にあり、とくに新規の患者の入院日数は一時から見ると著しく短縮している。
 しかし、精神科病院は、いずれは「老人病院」になるのではないかとかなり前から言われていたが、新プランによって、それが現実のものとなりかねないと危惧する者も少なくない。既に精神科病院には五万三〇〇〇人もの認知症患者が入院しており、その入院期間の国際比較をみると、欧米諸国の中でももっとも長いイングランドの七二・一日に対し、日本は血管性および詳細不明の認知症が三四九・八日(二〇一一年)であることを考えると極端に長いといえる。
 ひとつには、社会の受け皿がない「社会的入院」も少なくないので、一概に病院だけの責任とは言い切れない面もある。精神科の入院は今日、一定の手順を踏まないと容易には入院できないとはいえ、認知症患者の精神科への入院に一定の制限を加えようともとれる、「入院が必要な認知症の人の状態像」が提唱されている。このような場面で、精神科病院側と介護施設側との間に激しい応酬もみられる。
 介護施設などでは対応できない辺縁症状をもつ患者が治療のために精神科病院に一時的に入院すること自体は問題ないが、辺縁症状がすぐ治る、よくなってまたもとの生活環境に戻れると考えるのも楽観的過ぎるのではないか。
 わが国では、介護施設が増えつつある。しかし、精神科的なケアがかならずしも十分とは言えない現状を考えると、つまり「受け皿」の問題に帰することにもなり、それによって社会的入院が増えるという、かつての統合失調症患者の長期入院の問題を彷彿とさせるものがある。

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