論壇

新国立どころでない新たな負の遺産 リニア新幹線を止めよう!

戸田市  福田 純
 今回、暴騰する新国立競技場建設費に世論がおののき、暴走する安倍内閣を止めた。だが、今秋から始まろうとしている巨大公共事業は、少なく見積もっても新国立建設費の20数倍、建設当初の予算額で5.4兆円。さらに、この数倍にも膨れ上がると予想されるこの超大型公共事業を止めねばならない。
 2027年、東京名古屋間の開業を目指すリニア中央新幹線の建設がそれである。東京名古屋間を時速500㎞・最速40分で結ぶ世界初の超電導リニア方式での走行・浮上する。然しながら、良いことばかりではなさそうである。
 まず速さ。在来の東海道新幹線は東京名古屋間を100分。その差は60分あるが問題は移動時間。東京品川間約10分、大深度地下利用の為、各ホームまでの乗り換えにそれぞれ15分前後、1時間に5本の発車で待ち合わせに10分内外。先日起きた新幹線放火自殺の件により、乗車への安全強化が課せられれば、時間は更にかかる。合計すればそう変わらない。
 次に経済性である。浮上させて時速500㎞のスピードの為、新幹線の3倍以上、電力を消費すると言われ、そのベース・ロード電源はもっぱら原発(静岡浜岡と新潟柏崎刈羽)が充てにされている。浜岡原発の立地は東南海地震が30年以内に80%の確率であると予測される駿河湾に面し、加えて福島第1原発と同型の沸騰水型軽水炉でもあり、危険この上ない。ところが、この地震により東名高速を始め、在来線が壊滅的ダメージを受けた際のリスクヘッジとしてリニアが必要、と考えている人がいるが本末転倒である。
 次に難工事が待ち受けている。南・中央アルプスの下を堀り進むだけでなく、日本の活断層の親分“フォッサマグナ”を横切る。地質変化が大きいため「実際に掘ってみないと判らない」との大手ゼネコンの声もある。異常出水などに遭遇すればわずか500mの掘削に数年費やすこともあり得るという。
 これらに比べ、運賃は東京名古屋間で新幹線+700円、大阪間は+1000円と安く設定されているが、収益に見合うだけの乗客数が望めない。在来新幹線との競合に加え、2008年にピークを越えた日本の人口は減少の一途。乗客数は頭打ちとみられる。新幹線が開通50周年を越え、そのインフラ整備のためにもリニアは是非、必要との声はあるものの、採算性は危うい。今のところ、JR東海は自社力で建設経費を捻出すると言っているが破綻したときのしわ寄せは、国が肩代わりする(つまり税金が使われる)ことは自明の理である。バブル崩壊時の公的資金の投入しかりで「(企業が)大きすぎて潰せない」状況になる事を見越しての泡沫計画と言えよう。「富者には国家社会主義で臨み、貧者には新自由主義で臨む」というダブル・スタンダードがまかり通る世の中である。
 電磁波の人体への影響や86%がトンネルで掘削から出る大量の残土やトンネル内事故の際の避難誘導などの問題。さらに日本アルプスを貫くため河川流水路変更による渇水を含む自然環境破壊等々、まだまだ問題は山積している。
 超電導リニア新幹線は日本の優れた技術力のなせる業であるが、地震大国の日本にはリスクが過大である。アメリカの地震が少ない東海岸(ボストン─ワシントン間)などであればよいだろうが、そこに売り込むため日本で走らせるにはリスクが大きすぎる。
 また、超電導状態を作るには臨界温度以下に金属を液体ヘリウムで冷却する必要がある。このヘリウムは市場の8割を米国が握っている。つまり、リニアの稼働において、米国への絶対依存がさらに加わることになる。江戸時代に徳川将軍家が諸国大名に課した〝参勤交代〟の構図が新たに日本と米国の間に設けられる。〝日米参勤交代地獄絵図〟の始まりである。
 リニア中央新幹線の採算割れは将来の日本の国力を確実に、しかも永続的に奪う。日本の新たな負の遺産にならんとしているリニア中央新幹線。かような建設計画は民衆の声を挙げ、走り出す前に中止させねばならない。

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