論壇
新型インフルエンザ等対策特別措置法とヒポクラテスの誓い
戸田市 福田 純
インフルエンザ(以下「Flu」)が流行する時期が近くなり、季節性Fluの予防接種の対応で忙しい医療機関も多いと思われる。Fluの予防注射はシーズンにより効果の当たり外れはあるが、今年はA型2種類にB型1種類を加え4種類(価)にし、今までより効果が出るよう配慮された。その分、価格が上がり接種率の低下が懸念されたが、今のところそのような動きはない。一方、安全性については腕が少し赤く張れたり発熱するくらいで、重篤な副反応の報告は少ない。
さて、国はほとんどの人が免疫を持たない高病原性新型Flu「H5N1」対策として、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)を2012年5月制定した。パンデミックの発生早期にこれと対峙する検疫官や医療者などに鳥Flu由来のプレパンデミック・ワクチン(以下「PPV」)を接種すべく準備を計画した。だが、このPPVの有効性は担保されておらず、安全性にも見過ごせない問題が指摘されている。
1976年のアメリカで豚Fluが流行る兆しがあった時に、集団予防接種を実施した。その結果、人口10万人に1人程度発症するかという難病のギラン・バレー症候群が2カ月足らずで500例以上も発症。30人以上が死亡する事態となり、このプログラムは急遽中止された。結局、米国人4000万人が予防接種を受けたが、当の豚Fluは流行しなかった、という事例があった。
この教訓にも関らずわが国で、平成20年度厚生労働科学研究における利益相反に関する検討委員会のPPV使用研究報告によれば、検疫所、入国管理局、空港警察署、国立感染症研究所、実施医療機関等に勤務する職員のうち同意が得られた5561名が参加。このうち、注射部位が赤く腫脹するなど軽微な副反応は71%、重篤な有害事象が出現し入院を要したのは8名あった。この中には因果関係は定かでないが、ギラン・バレー症候群を思わせる四肢の痺れや、くも膜下出血、さらには心室細動を起こしたものが含まれている。
特措法には1000万人の医療従事者などにPPV接種を予定している。これにより単純計算で1.4万人に重篤な有害事象が生じることになる。中には死亡するものも出るであろう。いくらパンデミックが迫っているとはいえ、看過できない規模の有害事象と考える。このPPVは私たちが毎年接種している季節性ワクチンとは似て非なるモノと言えよう。
迫りくるパンデミックに臨床試験を行う時間的猶予はないが、第一線で働く検疫官や医療者たちをPPV実験のモルモットにすべきではない。
これに続いて、特措法では一般国民にパンデミック・ワクチン(以下「PV」)を接種する計画になっている。PPVより効果は良いと考えられるが、有害事象については未知数である。
我々医師が医学部に入学した折、〝ヒポクラテスの誓い〟という医師たる者の倫理規範を学ぶ。この中には、紀元前5世紀のもの故、現代にそぐわない内容も含まれてはいるが患者に害があることをせず、患者のプライバシーを尊守し、男女は勿論、貧富の差や人種、宗教などで別け隔てしない精神が掲げられている。そして、その倫理的精神は〝ジュネーブ宣言〟として引き継がれ、さらに、人を対象とする医学研究の倫理規範となる〝ヘルシンキ宣言〟に脈々と続いている。
有害事象の決して少なくないPPVやそれらが未確定なPVについて、自分たちが接種されたくないものを、患者に強要する特措法は、〝ヒポクラテスの誓い〟に背くものと言えよう。医師の倫理規範に背く医療行為を強要する特措法(第31条、第46条)は同意しかねる。少なくともこの箇所の変更をしていただきたい。
また、もし、これらのワクチンを接種するのが避けられないのであれば、製造時間が短く早期供給が可能な細胞培養法によるワクチンや感染防御効果の強いIgA抗体を誘導する経鼻接種する不活化ワクチンやHA(赤血球凝集素)の変異に関与しないユニバーサルFluワクチンの開発が待たれるところである。
さて、国はほとんどの人が免疫を持たない高病原性新型Flu「H5N1」対策として、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)を2012年5月制定した。パンデミックの発生早期にこれと対峙する検疫官や医療者などに鳥Flu由来のプレパンデミック・ワクチン(以下「PPV」)を接種すべく準備を計画した。だが、このPPVの有効性は担保されておらず、安全性にも見過ごせない問題が指摘されている。
1976年のアメリカで豚Fluが流行る兆しがあった時に、集団予防接種を実施した。その結果、人口10万人に1人程度発症するかという難病のギラン・バレー症候群が2カ月足らずで500例以上も発症。30人以上が死亡する事態となり、このプログラムは急遽中止された。結局、米国人4000万人が予防接種を受けたが、当の豚Fluは流行しなかった、という事例があった。
この教訓にも関らずわが国で、平成20年度厚生労働科学研究における利益相反に関する検討委員会のPPV使用研究報告によれば、検疫所、入国管理局、空港警察署、国立感染症研究所、実施医療機関等に勤務する職員のうち同意が得られた5561名が参加。このうち、注射部位が赤く腫脹するなど軽微な副反応は71%、重篤な有害事象が出現し入院を要したのは8名あった。この中には因果関係は定かでないが、ギラン・バレー症候群を思わせる四肢の痺れや、くも膜下出血、さらには心室細動を起こしたものが含まれている。
特措法には1000万人の医療従事者などにPPV接種を予定している。これにより単純計算で1.4万人に重篤な有害事象が生じることになる。中には死亡するものも出るであろう。いくらパンデミックが迫っているとはいえ、看過できない規模の有害事象と考える。このPPVは私たちが毎年接種している季節性ワクチンとは似て非なるモノと言えよう。
迫りくるパンデミックに臨床試験を行う時間的猶予はないが、第一線で働く検疫官や医療者たちをPPV実験のモルモットにすべきではない。
これに続いて、特措法では一般国民にパンデミック・ワクチン(以下「PV」)を接種する計画になっている。PPVより効果は良いと考えられるが、有害事象については未知数である。
我々医師が医学部に入学した折、〝ヒポクラテスの誓い〟という医師たる者の倫理規範を学ぶ。この中には、紀元前5世紀のもの故、現代にそぐわない内容も含まれてはいるが患者に害があることをせず、患者のプライバシーを尊守し、男女は勿論、貧富の差や人種、宗教などで別け隔てしない精神が掲げられている。そして、その倫理的精神は〝ジュネーブ宣言〟として引き継がれ、さらに、人を対象とする医学研究の倫理規範となる〝ヘルシンキ宣言〟に脈々と続いている。
有害事象の決して少なくないPPVやそれらが未確定なPVについて、自分たちが接種されたくないものを、患者に強要する特措法は、〝ヒポクラテスの誓い〟に背くものと言えよう。医師の倫理規範に背く医療行為を強要する特措法(第31条、第46条)は同意しかねる。少なくともこの箇所の変更をしていただきたい。
また、もし、これらのワクチンを接種するのが避けられないのであれば、製造時間が短く早期供給が可能な細胞培養法によるワクチンや感染防御効果の強いIgA抗体を誘導する経鼻接種する不活化ワクチンやHA(赤血球凝集素)の変異に関与しないユニバーサルFluワクチンの開発が待たれるところである。