論壇

スイッチOTC薬医療費控除の特例に潜む闇を覗く

春日部市  渡部 義弘
 昨今の医療改革は、浅慮の誹りを覚悟の上でいえば、財政優先、公助から共助そして自助へのシフト、医療をサービスとして川の流れに例えて、上流(急性期)から下流(在宅・介護)へのシフトが根幹である。小論では、今般、税制改正にて創設された「セルフメディケーション推進のためのスイッチOTC薬控除」について、市販薬(OTC)を中心に医療改革を検証していく。
 まず、スイッチOTCへ患者を誘導した場合の問題点を指摘したい。
①患者がスイッチOTCを購入するにあたり、診断が医学的に適正に行われ、それに見合う治療が可能か
 適切な診断が担保されなければ、診断の遅れ、誤診による疾病の遷延化、難治化、そして付加的な副反応が発生する可能性がある。
 一般のOTCでも間質性肺炎、心室頻拍、劇症肝炎、重症薬疹等が確認され死亡例も出ている。これらは医療を介しても発生するが、通院によるフィードバック、早期発見・対処が可能という点が重要である。控除の条件は、健康診査などを受けることとされるが、一年に一度では急な病状の変化には到底対応できない。結果として、本来必要のない検査・治療が施行され、治療期間が延長、無駄な医療費が発生する。医療費の削減効果ばかり謳うのではなく、公正な評価が必要である。
②OTCの安全性等はどうか
 OTCの安全性について十分な議論のない状況で、全く次元の異なる税制改正の場を利用して、患者をOTC購入へ誘導し、医療の中身へ切り込んでいく、姑息な手法を看過できない。
③スイッチOTC推進や、決定ではないがリフィル処方箋の使用は、極論を言えば、セルフメディケーションの名の下、薬剤師に「医学的判断」に基づいた投薬という「医行為」を行わせることである。 現在も一般のOTCでは、実質的に暗黙の了解のもと行われている行為であるが、これを更に推進し合法として薬剤師に「医業」の一部を移行していくことに発展しかねない。薬剤師と患者の間にも情報の非対称性があり、患者は薬剤師の「医学的判断」に基づく「指導」をしばしば医師と同等に受け止めているからである。
 次に、安易に引用されている「セルフメディケーション」なる語を検証する。
 世界保健機関(WHO)では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てをすること」と定義されている。厚労省の資料によると、「スイッチOTC薬控除」の大綱概要でもWHOのこの文を引き合いに出しているが、WHOの権威に乗って改正を正当化しようという意図が窺える。
 この「軽度な」とは如何なる状態を指しているのか、全く具体性を欠く。恣意的な解釈が可能だ。微熱や軽い咳、皮膚の病気くらいなら全て「セルフメディケーション」なのか?医療機関であれば「軽度な」うちに診断・治療可能な重篤化する恐れのある疾患でも、重篤化したら仕方がないから、医療を受けなさいというようにも取れる。
 さらに、スイッチOTC化、市販薬類似の医薬品の保険外しが激化すると、所得による医療格差の増大を生み出すことになる。民間保険がこの部分をカバーする保険を販売する可能性は少ないだろうし、あっても低所得者は入れないだろう。他にもTPPとの兼ね合いや、OTC売り上げ7300億円超(平成26年度)のドラッグストア業界の思惑なども関連してこよう。
 今回の税制改正を、単に患者が薬局に流れるという些末な問題、単なる医療費抑制政策の一つと捉えてはいけない。漠然とした「ばらまき型」ではなく、医療費削減に協力する者は優遇するという明確なメッセージを伴う「アクション誘発型」の改正は、今後の医療改革に対する喧伝効果を高めるであろう。
 本改正に限らず、医療改革の問題点を直接、患者に語り掛けられる医師・歯科医師の裁量を生かしていく必要がある。「蟻の穴から堤も崩れる」という。良き国民皆保険制度の保全のために小さな変化を認識し、行動したい。

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