論壇
臨床医の視点で耐性菌対策を
久喜市 青木 博美
薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン公表
1980年以降、人に対する抗菌薬の不適切使用を背景に、病院内を中心に新たな薬剤耐性菌が増加、動物においての薬剤耐性菌は動物分野での治療効果を「減弱させるほか、畜産物等を介して人に感染する可能性がある」ことなどを背景として、厚労省は本年4月5日、薬剤耐性の発生を遅らせ、拡大を防ぐため、薬剤耐性対策アクションプランを公表した。
アクションプランは、WHOの「薬剤耐性に関する国際行動計画」を踏まえ関係機関がワンヘルス・アプローチの視点にたち協働して集中的に取り組むとして対策をまとめたものである。
医療関係での成果目標として、①2020年の抗菌薬使用量の目標を2013年に対して、全体で33%減少させる等。②主な微生物の薬剤耐性率を2014年より低下させる2020年の目標値として、肺炎球菌のペニシリン耐性率を48%→15%以下に、黄色ブドウ球菌のMRSA率を51%→20%以下にする等々をあげている。
薬剤耐性菌の拡大要因 ─ 抗菌薬の使用のみではない
薬剤耐性菌の拡大要因は一つではない。
例えば、抗菌薬を使用すれば一定の割合で発生する耐性菌として、フルオロキノロン耐性緑膿菌、ペニシリン耐性インフルエンザ菌等々。逆に、抗菌薬使用により自然発生しない耐性菌(他の菌から耐性遺伝子獲得、施設外より侵入)として、VRE、MRSA、カルバペネム高度耐性肺炎桿菌(CRE)マクロライド高度耐性肺炎球菌等多数ある。
また、畜産分野での抗菌薬の使用により耐性菌が人の中で増加するものもあり、この分野での評価と規制の強化も求められている。
臨床医としての二つの視点 ─ 患者の治療と耐性菌を増やさない
治療を求めてきた患者さんを失敗せずに治したい、起こるかもしれない感染症を防ぎたい。これらは常に思っていることなので、抗菌薬の投与は過剰になりやすい。そして現在は、耐性菌を増やさないことも求められている。
やらなければならないことは、抗菌薬の適正使用である。言葉で言えば簡単だが、実際には適正使用は簡単ではない。抗菌薬の必要な細菌感染症であるのか、想定される起炎菌は何か、想定される細菌に対して適切な抗菌薬は何か、現状での薬剤感受性はどうか、などいろいろなことを考えなければならない。
まずできることは、漫然使用をしないことであろう。膀胱炎にフルオロキノロン投与でいいか(起炎菌として多い大腸菌は半数以上が耐性化していると思われるので第一選択としてはどうか)。急性上気道炎、細菌性ではなさそうだが、患者さんの要求もあるし、一応、第3世代セフェム系薬(本来、適応なし)を処方しておこう、等々。
CDCの提言「薬剤耐性を防止するための12のステップ」の良くないこと「抗菌薬の偏った使用、長期間投与、感染終息前の使用中止や炎症終息後の使用、colonizationやcontaminationの菌への使用、効果のないレベルの低用量使用」などは心がけておきたい。
成果を上げるために必要な患者との共同作業
抗菌薬の適正使用のためには、必要のない抗菌薬投与を行わない、必要以上に広範囲なスペクトラムを持つ抗菌薬の使用を避けることが要求される。このために患者に対する説明の他、患者も含めた国民の理解も必要である。治療、耐性菌増加対策は医師と患者の共同作業である。
特に対策の必要な菌種は、耐性肺炎球菌、MRSA
最後に、特に健康被害の多い菌種を挙げておきたい。耐性肺炎球菌とMRSAである。これらは感染例が多すぎてニュースバリューがなくなったためか余り話題に上らない。ニュースで話題になるのは「多剤耐性アシネトバクター」、「カルバペネム高度耐性腸内細菌(CRE)」、「バンコマイシン耐性腸球菌」などである。
しかし、現状では耐性肺炎球菌、MRSAによる健康障害、死亡は他の菌種に比べて桁違いに多いので、時のニュースに惑わされず重要と認識しておかなければならない。
1980年以降、人に対する抗菌薬の不適切使用を背景に、病院内を中心に新たな薬剤耐性菌が増加、動物においての薬剤耐性菌は動物分野での治療効果を「減弱させるほか、畜産物等を介して人に感染する可能性がある」ことなどを背景として、厚労省は本年4月5日、薬剤耐性の発生を遅らせ、拡大を防ぐため、薬剤耐性対策アクションプランを公表した。
アクションプランは、WHOの「薬剤耐性に関する国際行動計画」を踏まえ関係機関がワンヘルス・アプローチの視点にたち協働して集中的に取り組むとして対策をまとめたものである。
医療関係での成果目標として、①2020年の抗菌薬使用量の目標を2013年に対して、全体で33%減少させる等。②主な微生物の薬剤耐性率を2014年より低下させる2020年の目標値として、肺炎球菌のペニシリン耐性率を48%→15%以下に、黄色ブドウ球菌のMRSA率を51%→20%以下にする等々をあげている。
薬剤耐性菌の拡大要因 ─ 抗菌薬の使用のみではない
薬剤耐性菌の拡大要因は一つではない。
例えば、抗菌薬を使用すれば一定の割合で発生する耐性菌として、フルオロキノロン耐性緑膿菌、ペニシリン耐性インフルエンザ菌等々。逆に、抗菌薬使用により自然発生しない耐性菌(他の菌から耐性遺伝子獲得、施設外より侵入)として、VRE、MRSA、カルバペネム高度耐性肺炎桿菌(CRE)マクロライド高度耐性肺炎球菌等多数ある。
また、畜産分野での抗菌薬の使用により耐性菌が人の中で増加するものもあり、この分野での評価と規制の強化も求められている。
臨床医としての二つの視点 ─ 患者の治療と耐性菌を増やさない
治療を求めてきた患者さんを失敗せずに治したい、起こるかもしれない感染症を防ぎたい。これらは常に思っていることなので、抗菌薬の投与は過剰になりやすい。そして現在は、耐性菌を増やさないことも求められている。
やらなければならないことは、抗菌薬の適正使用である。言葉で言えば簡単だが、実際には適正使用は簡単ではない。抗菌薬の必要な細菌感染症であるのか、想定される起炎菌は何か、想定される細菌に対して適切な抗菌薬は何か、現状での薬剤感受性はどうか、などいろいろなことを考えなければならない。
まずできることは、漫然使用をしないことであろう。膀胱炎にフルオロキノロン投与でいいか(起炎菌として多い大腸菌は半数以上が耐性化していると思われるので第一選択としてはどうか)。急性上気道炎、細菌性ではなさそうだが、患者さんの要求もあるし、一応、第3世代セフェム系薬(本来、適応なし)を処方しておこう、等々。
CDCの提言「薬剤耐性を防止するための12のステップ」の良くないこと「抗菌薬の偏った使用、長期間投与、感染終息前の使用中止や炎症終息後の使用、colonizationやcontaminationの菌への使用、効果のないレベルの低用量使用」などは心がけておきたい。
成果を上げるために必要な患者との共同作業
抗菌薬の適正使用のためには、必要のない抗菌薬投与を行わない、必要以上に広範囲なスペクトラムを持つ抗菌薬の使用を避けることが要求される。このために患者に対する説明の他、患者も含めた国民の理解も必要である。治療、耐性菌増加対策は医師と患者の共同作業である。
特に対策の必要な菌種は、耐性肺炎球菌、MRSA
最後に、特に健康被害の多い菌種を挙げておきたい。耐性肺炎球菌とMRSAである。これらは感染例が多すぎてニュースバリューがなくなったためか余り話題に上らない。ニュースで話題になるのは「多剤耐性アシネトバクター」、「カルバペネム高度耐性腸内細菌(CRE)」、「バンコマイシン耐性腸球菌」などである。
しかし、現状では耐性肺炎球菌、MRSAによる健康障害、死亡は他の菌種に比べて桁違いに多いので、時のニュースに惑わされず重要と認識しておかなければならない。