論壇
薬価制度の抜本的改革にみる官邸主導主義を憂う
春日部市 渡部 義弘
昨今、抗がん剤やC型肝炎治療薬等、超高額医薬品が相次いで保険医療に導入され、医療費の中で薬剤費が9兆円を占めるに至り、その伸び率は無視できないものとなった。オプジーボの薬価引き下げを契機とし、俄かに薬価問題が医療政策上、喫緊の課題となっている。
経済財政諮問会議(以下「諮問会議」)でも議題に上がっており、昨年12月20日、塩崎厚労相、麻生財務相、菅官房長官、石原経済・財政相の四大臣で合意した「薬価制度の抜本的改革に向けた基本方針」が提出された。
基本方針の原則は、①市場実勢価格と乖離した薬価差は国民に還元、②新薬創出のため、イノベーションを推進する効果的な制度、③流通面における公正取引の安定化・効率化、④制度改革のPDCAの推進である。内容が多岐に亘るため、ここでは、主な点につき考察したい。
Ⅰ.薬価改定を年1回以上とする(新薬収載の機会に合わせ年4回)
大手医薬品卸事業者に対し毎年全品薬価調査を行い、市場実勢価格に近付け、薬剤費負担減を狙う。これに対しては、健保側も好意的。高額療養費制度適用外の場合、患者の自己負担が減少する。
しかし、薬価差益は今以上に減少し、医療機関・調剤薬局の経営に影響が出て、製薬企業の収益は低下する。のみならず、卸への価格圧力が生じる恐れがある。医療関連業種全般の予見性を脅かし、経営の困難さは加速する。
医療費削減ができても、医療を提供する業界が衰退しては本末転倒なのではないか。また、イノベーション推進の点でも、研究開発投資には既存の薬剤による収益は重要である。因みにこれらに対し、イノベーション推進の項では、費用対効果の高い薬剤は薬価を上げ、更にインセンティブ措置を行うとあるが、現時点で結果が出ている企業のみが有利となり、格差をさらに拡大し、製薬業界の再編を促すことになろう。
Ⅱ.薬価決定のプロセスの問題
薬価の算定根拠の明確化を謳っているが、原価計算方式が採られる類似薬のない新薬については、製薬メーカーの機密性の高い原価公表が履行されるかが問われる。
また、オプジーボの件では、特例拡大再算定の適用により50%の引き下げとした。国民皆保険制度の維持のため、財政圧迫の軽減をしたという点では大いに評価されるが、この決定にプロセス上の疑問を感じる。
厚労省は緊急措置のため薬価調査を実施せず、独自の計算方法により50%減額とした。問題は計算式上の、流通経費と乖離率の設定に明確な根拠がなく、これによって、年間販売額1500億円の壁をぎりぎり超えることができたところである。今後もこのような政策的改定が可能であれば、ルールは形骸化するであろう。
Ⅲ.財政の視点のみから医療を考える勢力に主導権を渡してはならない
本来薬価は、国が決定権を持つ公的価格だが、厚労相の諮問機関である、中央社会保険医療協議会(中医協)で具体的に議論されてきた。だが、オプジーボの件は、首相官邸が主導したことから、首相の諮問機関である「諮問会議」は、中医協のみの議論では医療費抑制目的の薬価改革が骨抜きにされるため、中医協の議論の進捗を管理すると主張。これは実効支配を意味すると思われる。
さらに、医療関係者がいない諮問会議の民間議員が、診療報酬にまでこの図式を持ち込もうと発言していることは重大な事案として受け止める必要がある。
多くのステークホルダーの狙いが錯綜する「薬価」であるが、薬剤の最終受益者である患者・国民を中心に置き、国民皆保険制度を担保した制度の構築が望まれる。
薬価を引き下げる一方で、OTC医薬品に類似の医療用医薬品の追加的自己負担を定めようとするなど、国費負担減と患者負担増を組み合わせた複雑な医療費削減政策にも目を光らせていきたい。
経済財政諮問会議(以下「諮問会議」)でも議題に上がっており、昨年12月20日、塩崎厚労相、麻生財務相、菅官房長官、石原経済・財政相の四大臣で合意した「薬価制度の抜本的改革に向けた基本方針」が提出された。
基本方針の原則は、①市場実勢価格と乖離した薬価差は国民に還元、②新薬創出のため、イノベーションを推進する効果的な制度、③流通面における公正取引の安定化・効率化、④制度改革のPDCAの推進である。内容が多岐に亘るため、ここでは、主な点につき考察したい。
Ⅰ.薬価改定を年1回以上とする(新薬収載の機会に合わせ年4回)
大手医薬品卸事業者に対し毎年全品薬価調査を行い、市場実勢価格に近付け、薬剤費負担減を狙う。これに対しては、健保側も好意的。高額療養費制度適用外の場合、患者の自己負担が減少する。
しかし、薬価差益は今以上に減少し、医療機関・調剤薬局の経営に影響が出て、製薬企業の収益は低下する。のみならず、卸への価格圧力が生じる恐れがある。医療関連業種全般の予見性を脅かし、経営の困難さは加速する。
医療費削減ができても、医療を提供する業界が衰退しては本末転倒なのではないか。また、イノベーション推進の点でも、研究開発投資には既存の薬剤による収益は重要である。因みにこれらに対し、イノベーション推進の項では、費用対効果の高い薬剤は薬価を上げ、更にインセンティブ措置を行うとあるが、現時点で結果が出ている企業のみが有利となり、格差をさらに拡大し、製薬業界の再編を促すことになろう。
Ⅱ.薬価決定のプロセスの問題
薬価の算定根拠の明確化を謳っているが、原価計算方式が採られる類似薬のない新薬については、製薬メーカーの機密性の高い原価公表が履行されるかが問われる。
また、オプジーボの件では、特例拡大再算定の適用により50%の引き下げとした。国民皆保険制度の維持のため、財政圧迫の軽減をしたという点では大いに評価されるが、この決定にプロセス上の疑問を感じる。
厚労省は緊急措置のため薬価調査を実施せず、独自の計算方法により50%減額とした。問題は計算式上の、流通経費と乖離率の設定に明確な根拠がなく、これによって、年間販売額1500億円の壁をぎりぎり超えることができたところである。今後もこのような政策的改定が可能であれば、ルールは形骸化するであろう。
Ⅲ.財政の視点のみから医療を考える勢力に主導権を渡してはならない
本来薬価は、国が決定権を持つ公的価格だが、厚労相の諮問機関である、中央社会保険医療協議会(中医協)で具体的に議論されてきた。だが、オプジーボの件は、首相官邸が主導したことから、首相の諮問機関である「諮問会議」は、中医協のみの議論では医療費抑制目的の薬価改革が骨抜きにされるため、中医協の議論の進捗を管理すると主張。これは実効支配を意味すると思われる。
さらに、医療関係者がいない諮問会議の民間議員が、診療報酬にまでこの図式を持ち込もうと発言していることは重大な事案として受け止める必要がある。
多くのステークホルダーの狙いが錯綜する「薬価」であるが、薬剤の最終受益者である患者・国民を中心に置き、国民皆保険制度を担保した制度の構築が望まれる。
薬価を引き下げる一方で、OTC医薬品に類似の医療用医薬品の追加的自己負担を定めようとするなど、国費負担減と患者負担増を組み合わせた複雑な医療費削減政策にも目を光らせていきたい。