論壇
現状の点数設定・算定要件では在宅医療の未来描けない
川越市 柴野 雅宏
昨年の診療報酬改定で在宅医療、特に施設入所の患者に対する点数が大きく変わった。在宅時医学総合管理料(「在医総管」)の算定対象であった有料老人ホーム、グループホーム、サ高住等の入所者は、施設入居時等医学総合管理料(「施設総管」)の対象となり、さらに新たな要件である診療患者数に応じた点数を算定することで大幅な減収となった。大幅な減収を避けるため、昨年3月31日までに在医総管を算定した患者は、今年3月末まで在医総管を算定できる経過措置が設けられたが、4月からは経過措置も切れさらに大きな減収要素となった。
昨年本紙7月号の論壇で在宅医療点数改定の問題点を論じたが、1年が経ち次回改定の議論が始まったことを踏まえ、小生が実際に直面している問題を通して現在の在宅医療の実態を指摘したい。
第1に改定の影響で大幅な減収となったことである。当院は、医師1人のため訪問診療料の例外規定などは算定していなかったが、前々回の改定の影響が大きく、施設往診に限れば、年間1,000万円以上の減収となっている。さらに、院内処方のため、施設入所患者の3分の1前後は赤字である。
第2に診療患者数の変動による異なった点数の設定は、全く合理性がない(説明のしようがない)。自己負担金の変動の幅を大きくし、患者や家族あるいは施設との信頼関係が損なわれる心配が常にある。「国が決めた」の一言だけでは誰も納得しない。
第3は施設の問題で、介護保険との給付の調整等で保険請求が複雑すぎる。さらに同一建物の複数患者に訪問診療を実施した際の記載は残っており、事務の負担が大きすぎる。そして何よりこのような仕打ちにあっても待っている患者のため、在宅医療をやめるわけにはいかないことだ。
小生は在宅医療にやりがいと誇りを感じて取り組んでいる。夜中や休日の呼び出しであっても、医師本来の患者の治療や看取りに関して労力を使うことは全く苦にならない。しかし、現在の在宅医療の最大の問題は、医師本来の仕事とは関係のないことに神経を磨り減らしていることである。
それは、前述のように患者の診療人数により自己負担金が2分の1になったり、2倍になったりと世間の常識では考えられないこと。様々な形態の施設が出来て、施設によって算定する点数が違うこと。極め付けは、1人の患者が1カ月に複数の異なる形態の施設をはしごしたり、場合によっては訪問診療が認められていないお泊まりデイなどの施設から依頼があることだ(施設側は医療制度を十分に理解していない事が多い)。
訪問診療を依頼されると、患者の治療方針を立てる前に、その施設の形態や同じ施設でも入所なのか、ショートステイなのか等を考えねばならない。また、翌月に他の患者も依頼されると施設総管や訪問診療料の点数が、診療人数に応じて、更に死亡時にも変わるため、自己負担金が変わることを患者や施設へ説明。これに、複数の患者を訪問診療した旨の記載の作成である。毎月多くの施設の患者を抱え、こんなに複雑な仕組みはもういい加減にして欲しいと言うのが本音だ。小生は、点数を上げることも大事だが、それよりも事務作業の軽減と、合理的で簡素な算定方式にして欲しいと思う。
最近、施設の依頼で訪問診療を実施していた精神科医療機関に、同じ患者に内科医療機関からも訪問診療を算定しているレセプトが出ており、訪問診療は1つの医療機関との要件から、どちらかの医療機関にして欲しいと審査機関から返戻された事例があると聞いた。また、主治医でない専門科では往診を断るということも聞く。
地域包括ケアでは、地域を1つの病院とする計画だが、複数の疾患を持つ患者にとって、主治医以外の専門診療科による訪問診療は避けて通れない。それぞれの医療機関で算定できなければ計画は成り立たないだろう。国は在宅医療の重要性を強調し、関わる医師を増やしたいとしているようだが、それにはまず、もっと現場の声に耳を傾け不合理な要件や点数設定を改め、施設等の訪問診療の複雑な算定要件を簡素化し、魅力的でやりがいのある在宅医療の未来のビジョンを描くべきだ。
昨年本紙7月号の論壇で在宅医療点数改定の問題点を論じたが、1年が経ち次回改定の議論が始まったことを踏まえ、小生が実際に直面している問題を通して現在の在宅医療の実態を指摘したい。
第1に改定の影響で大幅な減収となったことである。当院は、医師1人のため訪問診療料の例外規定などは算定していなかったが、前々回の改定の影響が大きく、施設往診に限れば、年間1,000万円以上の減収となっている。さらに、院内処方のため、施設入所患者の3分の1前後は赤字である。
第2に診療患者数の変動による異なった点数の設定は、全く合理性がない(説明のしようがない)。自己負担金の変動の幅を大きくし、患者や家族あるいは施設との信頼関係が損なわれる心配が常にある。「国が決めた」の一言だけでは誰も納得しない。
第3は施設の問題で、介護保険との給付の調整等で保険請求が複雑すぎる。さらに同一建物の複数患者に訪問診療を実施した際の記載は残っており、事務の負担が大きすぎる。そして何よりこのような仕打ちにあっても待っている患者のため、在宅医療をやめるわけにはいかないことだ。
小生は在宅医療にやりがいと誇りを感じて取り組んでいる。夜中や休日の呼び出しであっても、医師本来の患者の治療や看取りに関して労力を使うことは全く苦にならない。しかし、現在の在宅医療の最大の問題は、医師本来の仕事とは関係のないことに神経を磨り減らしていることである。
それは、前述のように患者の診療人数により自己負担金が2分の1になったり、2倍になったりと世間の常識では考えられないこと。様々な形態の施設が出来て、施設によって算定する点数が違うこと。極め付けは、1人の患者が1カ月に複数の異なる形態の施設をはしごしたり、場合によっては訪問診療が認められていないお泊まりデイなどの施設から依頼があることだ(施設側は医療制度を十分に理解していない事が多い)。
訪問診療を依頼されると、患者の治療方針を立てる前に、その施設の形態や同じ施設でも入所なのか、ショートステイなのか等を考えねばならない。また、翌月に他の患者も依頼されると施設総管や訪問診療料の点数が、診療人数に応じて、更に死亡時にも変わるため、自己負担金が変わることを患者や施設へ説明。これに、複数の患者を訪問診療した旨の記載の作成である。毎月多くの施設の患者を抱え、こんなに複雑な仕組みはもういい加減にして欲しいと言うのが本音だ。小生は、点数を上げることも大事だが、それよりも事務作業の軽減と、合理的で簡素な算定方式にして欲しいと思う。
最近、施設の依頼で訪問診療を実施していた精神科医療機関に、同じ患者に内科医療機関からも訪問診療を算定しているレセプトが出ており、訪問診療は1つの医療機関との要件から、どちらかの医療機関にして欲しいと審査機関から返戻された事例があると聞いた。また、主治医でない専門科では往診を断るということも聞く。
地域包括ケアでは、地域を1つの病院とする計画だが、複数の疾患を持つ患者にとって、主治医以外の専門診療科による訪問診療は避けて通れない。それぞれの医療機関で算定できなければ計画は成り立たないだろう。国は在宅医療の重要性を強調し、関わる医師を増やしたいとしているようだが、それにはまず、もっと現場の声に耳を傾け不合理な要件や点数設定を改め、施設等の訪問診療の複雑な算定要件を簡素化し、魅力的でやりがいのある在宅医療の未来のビジョンを描くべきだ。