歯科技工の実態と共に国民皆保険制度を考えよう

ふじみ野市  山田 洋孝
 歯の治療に用いられる間接法の修復物(詰め物)や補綴物(被せ物・入れ歯)は歯科医師の指示を受けた歯科技工士(歯科技工士法に定められた国家資格)が製作することが一般的である。本邦では一般的な修復物・補綴物の大半が保険適用となっており、これは世界的に見ても珍しく、保険で良い歯科医療を受ける上で欠かせないものとなっている。この歯科医療の一翼を担う歯科技工の実態から、歯科診療報酬の問題点を考察してみる。
 はじめに、歯科技工士の就業形態である。かつては歯科医療機関で歯科技工士を雇用し、院内で技工作業を行う形態が多く見られた。しかし、現在は外部の歯科技工所へ発注する形態が主流となっており、厚労省の平成26年衛生行政報告例の概況によると、歯科技工所従事者が70.8%を占めている。また、年齢階級別では、50歳から59歳が28.8%を占め、実働歯科技工士の高齢化はすさまじい勢いで進行している。
 一方、若手歯科技工士の離職率は歯科技工士会調べによると約8割、さらに技工学校の入学者も激減しており、我々の多くが現役で働いている近い将来に、深刻な歯科技工士不足が生じ、保険歯科技工に重大な支障を来す可能性は極めて大きいと言わざるを得ない。
 次に技工士の報酬である。保険適応の修復物や補綴物などは歯科医療機関でレセプト請求を行い、「公定価格」である診療報酬として支払われる。そして、歯科技工士に指示を出した歯科医療機関から「市場価格」である技工料として支払われる。即ち、保険技工物を制作しているにも係わらず、歯科技工所は保険制度の外に存在している。
 しかし、歯科診療報酬は長年に渡り低報酬に押さえつけられてきた。低報酬が歯科医療機関の経営に及ぼす影響は非常に大きく、その他の要因と相まって歯科医師の経済状況の悪化は一般紙でも報じられている。何れの歯科医療機関においても経営努力を積み重ねてはいるが物事には限度が有り、歯科技工所への支払いは残念ながら物価の推移と乖離したものとなっている。
 保団連は2016年に歯科技工所アンケート調査を行った。38都府県内の歯科技工所12,072軒を対象に実施、20.3%の回答率を得た、技工所実態調査アンケートとしては嘗てない大規模なものである。アンケートから歯科技工所の経営は可処分所得の所得区分でみると、300万円以下22.7%、200万円以下19.2%と、苦しいものとなっていることが明らかになった。
 保険歯科技工を将来にわたり維持するには技工料金の充実は避けては通れない喫緊の課題である。技工料金を充実させるための方策は多くの協会・医会で様々な案が考えられているが、いずれにせよ歯科診療報酬が充分な物でなければ支払いに割けるお金が不足することは否めない。
 これらの問題は多くの歯科関係者にとって共通の認識が生まれなければ取り組むことは難しい。協会会員諸氏におかれても是非御一考願いたい。
 実は医療界には他にも類似していると思われる問題がある。日々の臨床で多くの検査が行われているが、多くの診療所は、臨床検査会社に外注している。この臨床検査会社への検査料金支払いは診療報酬としてではなく、技工料金と同様、「市場価格」で医療機関との契約による金額が支払われている。一方で検査の診療報酬点数は実勢市場価格により、引き下げが続いており、検査関連6団体協議会から、平成13年に検査差益の問題も指摘した要望書が出されたことがある。根底には共通した問題が感じられる。
 現在の医療は医科も歯科も外注を含めてチーム医療が営まれている。かけがえのない国民皆保険制度が皆にとって望ましい形で有ることを願ってやまない。

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