論壇

共謀罪(テロ等準備罪)と医療

戸田市  福田 純
 日光の東照宮に三猿(見ざる・聞かざる・言わざる)がいる。安倍内閣は国民を三猿にしようとしている。(政府にとって都合が)悪い事は見えないように(特定秘密保護法)、国民の声には耳を貸さないが、そのくせ耳をそばだてる(通信傍受法・盗聴法)。そして今まさに、共謀罪(組織犯罪処罰法の改正案)で群れてモノ申すことをも許さない社会へと国を変えようとしている。衆院を強行採決した折、自民党議員は全員が賛成した。だが、世論調査の賛否は分かれており、この法案をよく知っているという人ほど「反対」が多い。
 このことは投票で選ばれた支持者の代弁者たる代議士本来の仕事をしていないことになる。そればかりか、これは支持者への裏切り行為でもある。党議拘束に縛られて、反対の意思表示が出来かねたと解釈されるが、与党の議員である以前に、支持者への忠誠心は選挙が終われば霧散する?いや初めからそんなものは持ち合わせていないのかもしれない。
 さらに、首相や法務大臣たちの国会答弁は常に論点を避け、まともに取り合わない不誠実さは極め付けである。こんな輩にこの国が牛耳られているかと思うと、腹立たしいと共に情けなさ・恥ずかしさを感じる。
 政府がテロ対策に必要と(国民に)説明している国際組織犯罪防止条約(TOC条約)も国連の担当者は「この条約はテロ防止目的ではない」と述べ、さらに国連人権理事会のケナタッチ特別報告者の指摘によると、日本の共謀罪は「プライバシーを制約する恐れがある」とその危険性を指摘している。しかしながら政府はそのことに(不当だと)非難はすれども、まともな反論は出来ていない。
 共謀罪の成立により、憲法19条は形骸化し、憲法の保証する「言論の自由」や「プライバシーの侵害」など内心の自由(思想や良心の自由)が損なわれようとしている。2人以上で行政の決め事などに異を唱え、いや話し合うことすら罪に問われ、これら罪人(未遂も含む)を監視する機構が強大になる事は想像に難くない。警察公安による監視(盗聴・盗撮・尾行)のみならず密告を促す(時には密告者を奨励・脅迫する)。密告を司法取引に用い、減刑の材料にすら用いるであろう。
 一般庶民のプライバシーは赤裸々になり、表現の自由は奪われ、委縮した社会、ストレスの多い社会に変革される。この結果、仲間、ことに近親者の中でさえ相互不信を生み、ギクシャクした人間関係が常態化し、人と人の間の絆は寸断される。昨今、ただでさえ振り込め詐欺など、社会的弱者を狙った詐欺事件が多く発生し、不用意に人を信用してはいけない世知辛い風潮になっているというのに…。不信の連鎖で覆われる社会にあって、疑心暗鬼に陥った人々は心身ともに疲弊する。今まで元気で働けていた人もいつしか笑顔が消え、体のあちこちに不調を抱え、それに伴い医療機関を受診する人も増えるであろう。特に対人ストレスによる精神科領域の受診増が世相の悪化と相関するであろう。
 医療は本来、医療者と患者間に於いて、信頼関係が構築されてこそ成立するものである。そうした、人と人の大切な信頼関係を削ぐことを日常にして過ごしているうちに、人々は不信感で満ちあふれ、社会は荒廃し、親しき友ばかりでなく親でさえをも疑うことしか知らない子供たちが増える。そんな彼らが育った将来の日本が明るいと誰が思えようか?この法案に賛成した国会議員たちはこの国の未来をどう考えているのか!
 日本の未来について話す建設的意見が、時の政権にそぐわないと判断されれば、共謀罪になりかねない危険が内在している。堂々と正しいことも言えず、疑問に思ったことも相談できない相互不信の社会を、今回の共謀罪は構築してしまう。信頼する人間関係が損なわれ、労働意欲も減少し、社会の活性や生産性は低下する。沈滞化した日本を憂い、建設的な意見も言えなくなる社会を促進するのが共謀罪成立以後の世界である。
 政府の答弁では「一般人は対象外」と説明されているが、共謀罪は警察当局に「疑われた段階で一般人ではなくなる」とも言われている。当局の判断いかんで瞬時に“共謀罪”が一般人に牙をむく“凶暴罪”に変わることが懸念される。
 「モノ言えば唇寒し共謀罪!」。一般人はひたすら猫をかぶり、寝たふりをする東照宮の眠り猫にならんとしている。

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