論壇
対面診療中心主義を守ろう
「遠隔診療」はあくまで「診療」のツール
春日部市 渡部 義弘
政府の未来投資会議は、遠隔診療を推進するため、平成30年の改定において、初診料、医学管理料等、診療報酬上の評価を新設する方向で議論を進め、中医協の頭越しに、医療機関を遠隔診療参加へ誘導しようとしている。今年6月9日に骨太方針と併せて閣議決定された、「未来投資戦略2017-Society5.0の実現に向けた改革-」の中で、遠隔診療と対面診療を組み合わせて効果的・効率的という表現こそされているが、効率優先の目線で遠隔診療を次期診療報酬改定で評価を行うと断言。
改定まであと僅かなこの時期にあっても、十分な検証・議論無く、最近の国会運営と同様、遠隔診療ありきで状況は進行。「伝道師」として一部医療機関も精力的に活動。具体的な適用のルールも不透明な中ではあるが、検証してみたい。
Ⅰ.医療水準低下の懸念
企業やマスコミは、診断が確定し、症状が安定している患者の時間的・空間的通院負担軽減を大きくアピールしている。多忙など、個人的理由で通院が不十分になり、疾患の増悪を起こした患者の救済などのメリットを前面に出している。「遠隔診断」なども含めICTの利便性・有用性は大いに活用すべきだろう。
しかし、ICT技術の導入と診療は別物で、後者は、医療の本質の部分である。遠隔診療システムは、IT機器を通してデジタル化された、映像、音声、および簡略な生体データを認識する。視覚、聴覚のみならず触覚、嗅覚、画面に入らない患者の動作等を含め、現場でしかできない検査データなども参照の上、患者の状態を総合的に判断する対面診療には情報量の上でも遠く及ばない。初診は「確実に」対面診療とすべきだし、再診でも、新たな症状が現れたらやはり対面診療とすべきである。
勿論、対面診療でも誤診や、最適ではない判断は存在する。対面診療を明らかに凌駕する或いは最低でも同等の、患者に対し信頼に足る診療を担保できるエビデンスが十分に無いのであれば、生身対生身の対面診療を補完する次善的ツールまでと位置付けるべきであろう。性急に、対面診療と同じ土俵に上げるものではない。未来投資戦略の打ち出しは拙速感が否めず、推進派のビジネス界・学界の動向には注意し、問題点を指摘していかねばならない。
Ⅱ.治療および患者情報管理の責任問題
対面診療が可能であっても、患者が必要以上に外来受診を回避したり、対面診療では求めづらいような処方を要求してくることなどの事態も想定される。また、重症化した状況で、患者が遠隔診療を要求し、増悪に気づかず対応し悪い転帰となった場合、当然最終責任は医師にある。対面診療より、リスクは高まるだろう。情報の管理・セキュリティの問題、対象範囲の特定、対象患者、対象疾患の適応性など、様々な課題が容易に浮かんでくる。にも拘わらず、なし崩し的に導入された結果、企業のシステムトラブル以外で生じた患者の不利益に対する責任はすべて医師が負うことになる。
Ⅲ.保険診療報酬上の問題
遠隔診療は、厳しくハードルを定めないとコンビニ診療が増加する恐れが高いだけでなく、混合診療もどきの算定が量産される状態になる。しかしハードルを高めれば、改革は進まない。そのため保険診療報酬への積極的評価が出てきた。
遠隔診療の本質は、端的に言えば営利企業による信頼性の担保無き医療システム改変の一つであり、これを保険診療報酬の中で高く評価すれば、営利企業による医療のビジネス化を今後も受け入れ続けることになる。
Ⅳ.終わりに
スイッチOTC控除や、セルフメディケーション薬局など、低医療費化を目的に対面診療を避ける政策が強く促され、医学的診断の担保がされない治療行為へと国民を誘導する存在に対し、警鐘を鳴らしていくべきではないか。
営利企業の利潤追求、経済成長戦略の目的によって、医療が変質し、国民の健康に不利益を及ぼすことがあってはならない。対面診療こそ、医療が本来あるべき姿であることを今一度確認したい。
改定まであと僅かなこの時期にあっても、十分な検証・議論無く、最近の国会運営と同様、遠隔診療ありきで状況は進行。「伝道師」として一部医療機関も精力的に活動。具体的な適用のルールも不透明な中ではあるが、検証してみたい。
Ⅰ.医療水準低下の懸念
企業やマスコミは、診断が確定し、症状が安定している患者の時間的・空間的通院負担軽減を大きくアピールしている。多忙など、個人的理由で通院が不十分になり、疾患の増悪を起こした患者の救済などのメリットを前面に出している。「遠隔診断」なども含めICTの利便性・有用性は大いに活用すべきだろう。
しかし、ICT技術の導入と診療は別物で、後者は、医療の本質の部分である。遠隔診療システムは、IT機器を通してデジタル化された、映像、音声、および簡略な生体データを認識する。視覚、聴覚のみならず触覚、嗅覚、画面に入らない患者の動作等を含め、現場でしかできない検査データなども参照の上、患者の状態を総合的に判断する対面診療には情報量の上でも遠く及ばない。初診は「確実に」対面診療とすべきだし、再診でも、新たな症状が現れたらやはり対面診療とすべきである。
勿論、対面診療でも誤診や、最適ではない判断は存在する。対面診療を明らかに凌駕する或いは最低でも同等の、患者に対し信頼に足る診療を担保できるエビデンスが十分に無いのであれば、生身対生身の対面診療を補完する次善的ツールまでと位置付けるべきであろう。性急に、対面診療と同じ土俵に上げるものではない。未来投資戦略の打ち出しは拙速感が否めず、推進派のビジネス界・学界の動向には注意し、問題点を指摘していかねばならない。
Ⅱ.治療および患者情報管理の責任問題
対面診療が可能であっても、患者が必要以上に外来受診を回避したり、対面診療では求めづらいような処方を要求してくることなどの事態も想定される。また、重症化した状況で、患者が遠隔診療を要求し、増悪に気づかず対応し悪い転帰となった場合、当然最終責任は医師にある。対面診療より、リスクは高まるだろう。情報の管理・セキュリティの問題、対象範囲の特定、対象患者、対象疾患の適応性など、様々な課題が容易に浮かんでくる。にも拘わらず、なし崩し的に導入された結果、企業のシステムトラブル以外で生じた患者の不利益に対する責任はすべて医師が負うことになる。
Ⅲ.保険診療報酬上の問題
遠隔診療は、厳しくハードルを定めないとコンビニ診療が増加する恐れが高いだけでなく、混合診療もどきの算定が量産される状態になる。しかしハードルを高めれば、改革は進まない。そのため保険診療報酬への積極的評価が出てきた。
遠隔診療の本質は、端的に言えば営利企業による信頼性の担保無き医療システム改変の一つであり、これを保険診療報酬の中で高く評価すれば、営利企業による医療のビジネス化を今後も受け入れ続けることになる。
Ⅳ.終わりに
スイッチOTC控除や、セルフメディケーション薬局など、低医療費化を目的に対面診療を避ける政策が強く促され、医学的診断の担保がされない治療行為へと国民を誘導する存在に対し、警鐘を鳴らしていくべきではないか。
営利企業の利潤追求、経済成長戦略の目的によって、医療が変質し、国民の健康に不利益を及ぼすことがあってはならない。対面診療こそ、医療が本来あるべき姿であることを今一度確認したい。