論壇

個別指導の画期的事例を受け、さらなる発展をめざす

上尾市  小橋 一成
はじめに
 個別指導で「カルテの記載に関して、検査を受けているようだった」などの報告を聞くたびに、かなりの違和感を感じていた。それは、時として保険医の人権を無視する指導が当然の如く行われてきたからである。
 個別指導の根拠は健保法第73条「保険医は療養の給付に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならない」という条文だけである。しかし、実態はそうではないことから、現状の指導はどの法律に則って行われているものか、機会があれば、究明したいと思っていた。すなわち、法治国家として、機能してほしいと思っていた。
 今回、一人の会員の努力と闘いにより、個別指導で大いなる成果を得た(詳細は本紙8月号に掲載)。

埼玉で勝ち取った画期的な事例
 今回、会員は個別指導を受けてから4年もの長い年月をかけて、個別指導を法律に則って行うことを求めて闘った。その中で、厚生局より全国で初めて文書回答が出されるという画期的な成果を得た。
①個別指導では健康保険法に定めのない事項については行政手続法が適用されるものと考える。
②個別指導は健康保険法第73条に基づいて行うものであり、同78条(監査の根拠)に規定されている質問又は検査する権限(いわゆる質問検査権)を有していない。個別指導の実施方法は、個別指導を受ける義務に基づき、関係書類を閲覧し、個別に面接懇談方式で実施するものである。

「個別指導は行政手続法の適用を受ける」ことの意義
 行政手続法第32条には、「行政指導に従わなかったことを理由として不利な取扱いをしてはならない」と行政指導は任意の協力により実施されると規定している。しかし、自主返還の強要、同意なくカルテのコピーを行う、説明・合意なく中断するなど、現状の個別指導とは乖離がある。法律に基づいて指導が実施されれば、今後、保険医の強い人権擁護になる。

「『質問検査権』を有しない」ことの意義
 個別指導は健保法第73条の規定で行われるため、同第78条に規定されるような調査権限(いわゆる質問検査権)は有していない。そして個別指導の方法を具体的に規定する指導大綱に書かれているのは、保険診療の取り扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う、その方法は面接懇談方式で行うとされている。
 今回、会員は最終的にカルテとレセプトの内容を突合することなく、レセプト請求の方法や実施している検査の考え方などについて、一般的なやり取りをする面接懇談方式で、指導が終了した。カルテは持参物の一部として確認された。しかし、会員は、日々の診療で保険診療のルールに則ったカルテ記載をする努力を重ねていた。そのため、懇談の中で説明が必要な場合はカルテを見せて説明できるという体制で臨んでおり、特殊な事例ではある。

我々のなすべきことは
 今回の事例は、我々保険医にとって長年の懸案であった、個別指導の改善運動に大きな成果をもたらした。今後個別指導が「面接懇談方式」で実施されたならば、保険医の精神的負担がどんなに軽くなるであろうか?これが法令に基づくものであり、本来の姿であると思う。そのためには、保険診療のルールを熟知すること。また、患者にとって適切な医療行為になっているか、納得してもらう説明と、その内容をカルテに記載することだ。それにより、診断精度も上がると思っている。

終わりに
 そもそも、患者と我々医師は信頼関係を築くことが基本である。しかし患者との関係は単に、個別指導という狭い範囲のことではない。患者・家族から直接のカルテ開示を求められるかもしれない。また、医療訴訟になった時、守ってくれるのは、自分のカルテであって、医療は常に誰からも見られているという認識が必要である。

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