論壇
貧困問題と生活保護基準引き下げ訴訟
富士見市 入交 信廣
2018年度は、5年に一度の生活保護基準額の見直しが行われる。そのため、厚労省は前回の基準額見直しによる影響の検証を進めている。生活保護と日本の貧困問題について、直近の公表資料より考えてみたい。
「相対的貧困率」
全人口の等価可処分所得の中央値の半分(貧困ライン)未満の世帯の割合とされる相対的貧困率は、単純な購買力よりも、所得格差の指標である。そのため、日本、米国など比較的豊かな国でも高い割合が示されている。
厚労省の「平成28年国民生活基礎調査の概況」によれば、日本の所得の中央値は、1997年に297万円であったが、2015年には245万円になっている。この半分の122万円が貧困ラインとなる。この金額が生存が厳しい「絶対的貧困」に近づいていることは、大きな問題である。
また、18年間で所得の中央値が52万円低下しており、多くの日本での低所得化が示されている。
「日本での貧富の差」
日銀が発表した資金循環統計によると、家計が保有する金融資産は2017年3月末時点で1809兆円と、年度末としては、過去最高を記録した。この60%を、60歳以上の裕福な高齢者が保有しているとされる。また、民間企業の金融資産も1153兆円で過去最高となった。内部留保は、安倍政権でも伸び続け、2016年度時点で400兆円を超えた。
企業は、国内市場の縮小を見込むとともに、成長が見込める海外企業の買収のための資金の確保などのため賃金を上げようとはしていない。このため、バブル崩壊後の1990年代以降、大半の日本人には、昇級、昇進の機会が減り、大学卒新入社員の平均初任給は20万円程度で頭打ちになっている。
アマゾンのような新興企業の急成長に伴う競争の激化、物価下落、非正規労働者や自営業における低賃金労働の増大は、日本人の賃金上昇の抑制に拍車をかけている。
OECD35カ国中、日本は、相対的貧困率(貧富の差)が6番目に高いことが示されている。
「生活保護制度」
生活保護の被保護者数は、1951年に205万人、以後高度経済成長に伴い、1995年には、88万人まで減少した。しかしその後日本の低所得化に伴い、2017年5月には、213万人にまで、増加した。このうち「高齢者」「母子家庭」「障害者や傷病者」が84%を占めており、貧困の原因の多くは《労働ができないこと》である事を示唆している。
「生活保護基準引き下げ訴訟」
2012年の衆議院総選挙で、生活保護給付水準一割カットを公約した自民党は、2013年8月、生活扶助基準を引き下げた。
現在、生活保護基準引き下げの「違憲・違法」を訴える訴訟が全国各地で行われている。埼玉協会も「生活保護基準引き下げ反対埼玉連絡会」に加入して支援活動をしているところである。この訴訟の争点は、厚労省が行った引き下げの方法にある。
厚労省は、もともと収入下位40%の一般世帯と、生活保護世帯の消費支出を比較し、その均衡を図り基準額を定める消費水準均衡方式に基づくとしながら、①40%ではなく「収入下位10%の一般世帯」の消費支出との均衡を計り、②2008年から2011年にかけての物価下落率4.78%を理由に引き下げを行った。
①について、日本では、生活保護資格があり受給している世帯の補足率は約20%と言われている。「収入下位10%の一般世帯」には、受給資格より遙かに貧困世帯が含まれているはずであり、これに生活扶助基準を合わせるのは誤りがあろう。②について、4.78%の物価下落率は厚労省が独自に作成した「生活扶助相当CPI(消費者物価指数)」により算定した数値であり、恣意的に操作されたと指摘されている。
2013年度の基準引き下げは、森友問題、加計問題と並び安倍政権の政治的な圧力によって行政のあるべき姿が歪められた事例と言える。
生活保護は生活困窮者のためのもので、自らには縁のないものと考えるのではなく、すべての人にとって、万が一の時に命を守る制度とすべきである。2018年度の基準額見直しは、更なる引き下げが予想されている。それを阻止するためにも、生活保護基準引き下げ訴訟を見守り、支援していきたい。
「相対的貧困率」
全人口の等価可処分所得の中央値の半分(貧困ライン)未満の世帯の割合とされる相対的貧困率は、単純な購買力よりも、所得格差の指標である。そのため、日本、米国など比較的豊かな国でも高い割合が示されている。
厚労省の「平成28年国民生活基礎調査の概況」によれば、日本の所得の中央値は、1997年に297万円であったが、2015年には245万円になっている。この半分の122万円が貧困ラインとなる。この金額が生存が厳しい「絶対的貧困」に近づいていることは、大きな問題である。
また、18年間で所得の中央値が52万円低下しており、多くの日本での低所得化が示されている。
「日本での貧富の差」
日銀が発表した資金循環統計によると、家計が保有する金融資産は2017年3月末時点で1809兆円と、年度末としては、過去最高を記録した。この60%を、60歳以上の裕福な高齢者が保有しているとされる。また、民間企業の金融資産も1153兆円で過去最高となった。内部留保は、安倍政権でも伸び続け、2016年度時点で400兆円を超えた。
企業は、国内市場の縮小を見込むとともに、成長が見込める海外企業の買収のための資金の確保などのため賃金を上げようとはしていない。このため、バブル崩壊後の1990年代以降、大半の日本人には、昇級、昇進の機会が減り、大学卒新入社員の平均初任給は20万円程度で頭打ちになっている。
アマゾンのような新興企業の急成長に伴う競争の激化、物価下落、非正規労働者や自営業における低賃金労働の増大は、日本人の賃金上昇の抑制に拍車をかけている。
OECD35カ国中、日本は、相対的貧困率(貧富の差)が6番目に高いことが示されている。
「生活保護制度」
生活保護の被保護者数は、1951年に205万人、以後高度経済成長に伴い、1995年には、88万人まで減少した。しかしその後日本の低所得化に伴い、2017年5月には、213万人にまで、増加した。このうち「高齢者」「母子家庭」「障害者や傷病者」が84%を占めており、貧困の原因の多くは《労働ができないこと》である事を示唆している。
「生活保護基準引き下げ訴訟」
2012年の衆議院総選挙で、生活保護給付水準一割カットを公約した自民党は、2013年8月、生活扶助基準を引き下げた。
現在、生活保護基準引き下げの「違憲・違法」を訴える訴訟が全国各地で行われている。埼玉協会も「生活保護基準引き下げ反対埼玉連絡会」に加入して支援活動をしているところである。この訴訟の争点は、厚労省が行った引き下げの方法にある。
厚労省は、もともと収入下位40%の一般世帯と、生活保護世帯の消費支出を比較し、その均衡を図り基準額を定める消費水準均衡方式に基づくとしながら、①40%ではなく「収入下位10%の一般世帯」の消費支出との均衡を計り、②2008年から2011年にかけての物価下落率4.78%を理由に引き下げを行った。
①について、日本では、生活保護資格があり受給している世帯の補足率は約20%と言われている。「収入下位10%の一般世帯」には、受給資格より遙かに貧困世帯が含まれているはずであり、これに生活扶助基準を合わせるのは誤りがあろう。②について、4.78%の物価下落率は厚労省が独自に作成した「生活扶助相当CPI(消費者物価指数)」により算定した数値であり、恣意的に操作されたと指摘されている。
2013年度の基準引き下げは、森友問題、加計問題と並び安倍政権の政治的な圧力によって行政のあるべき姿が歪められた事例と言える。
生活保護は生活困窮者のためのもので、自らには縁のないものと考えるのではなく、すべての人にとって、万が一の時に命を守る制度とすべきである。2018年度の基準額見直しは、更なる引き下げが予想されている。それを阻止するためにも、生活保護基準引き下げ訴訟を見守り、支援していきたい。